第1回 「ラツーダ誕生の歴史~創薬から開発成功まで~」「ラツーダで精神科治療はどこまで変わるか」

第1回 「ラツーダ誕生の歴史~創薬から開発成功まで~」「ラツーダで精神科治療はどこまで変わるか」

 2020年6月、本邦でラツーダが「統合失調症」および「双極性障害におけるうつ症状の改善」を効能・効果として発売となりました。そこで7月に『Seeking for Long Term Success』と題した第1回ラツーダ発売記念講演会が開催されました。本コンテンツでは、3回にわたり、この発売記念講演会の模様をレポートします。
 第1回の今回は、「ラツーダ誕生の歴史~創薬から開発成功まで~」、「ラツーダで精神科治療はどこまで変わるか」をダイジェストでお届けします。

はじめに、樋口先生からラツーダの世界共通のビジョンについて お話しいただきました

Opening Remarks

樋口 輝彦 先生

樋口 輝彦 先生
一般社団法人日本うつ病センター
名誉理事長

<樋口先生>
 本講演会のタイトルに記した「Long Term Success」とは、ラツーダの世界共通のビジョンで、患者さんの生活に喜びを感じられる瞬間・変化をもたらす長期的な成功を意図した言葉です。
 海外では昨年10月末の時点で推計200万人以上の投与実績があるラツーダが、本邦では2020年6月11日から使用可能となりました。今、ラツーダがここ日本で使用できるのは、臨床試験にご協力いただいた医師、医療スタッフの方、そして臨床試験に参加してくださった2,000人以上の患者さんなど、さまざまな方のおかげでございます。このたび、本邦における承認、発売を迎えられたことを、心より嬉しく思います。

ラツーダの創製〜開発の経緯について、大日本住友製薬株式会社 開発本部 CNS臨床開発シニアフェローの籔内 一輝氏からお話しいただきました

ラツーダ誕生の歴史 ~創薬から開発成功まで~

ラツーダの創製~研究者が患者視点で考え抜いたSDA~

籔内 一輝 氏

<籔内氏>
 私からは、ラツーダの創薬と国内開発経緯についてご紹介させていただきます。まず、我々研究者は、統合失調症の陽性症状を改善し、長期使用にあたり問題となる過鎮静、代謝系副作用、認知機能障害といった副作用を来しにくい、ドパミンD2受容体への強力な拮抗作用を維持しつつ、ヒスタミンH1受容体やアドレナリンα1受容体への親和性を乖離する”精巧なSDA”を創薬することを目指してきました(図1)。

 そしてでき上がったのが、ラツーダです。実際、ラツーダは、主作用と考えられているドパミンD2受容体と、副作用に関わるアドレナリンα1受容体は、親和性が40倍以上解離しており、また、ヒスタミンH1受容体とは1,000倍以上解離しているといった特徴を有しています。さらに、セロトニン5-HT7拮抗作用と5-HT1Aパーシャルアゴニスト作用を併せ持つ、ユニークな薬剤となっております(図2)。

ラツーダの国内開発経緯~ラツーダを日本の患者さんへ届けたい~

<籔内氏>
 続いて、国内開発経緯についてご紹介させていただきます。先生方のなかには、「なぜ海外からこんなに発売が遅れたのか」、「統合失調症で3回も検証試験をやっているようだが、本当に効くのか」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃることと思います。本日は、これらの疑問に回答させていただきます。

 まず、統合失調症の試験については、プラセボ対照試験の実施が大きな壁でした。本邦における1回目の第3相試験であるPan-Asia試験では、いわゆる治療抵抗性の患者集団が含まれていたことが主な原因で、有効性を検証できませんでした。また、2回目の第3相試験であるPASTEL試験でも、多剤大量投与がされていない、治療抵抗性ではない急性増悪期の患者集団に絞り込めなかったこともあり、modified intent-to-treat (mITT)集団でp=0.050078と非常に悔しい結果でした。これらの失敗を踏まえて臨んだJEWEL試験では、急性発症後早期の陽性症状が前景の患者集団を組み入れ、有効性を検証することができました。

先生方に”ラツーダで精神科治療はどこまで変わるか”ご討議いただきました

ラツーダで精神科治療はどこまで変わるか

渡邊 衡一郎 先生

渡邊 衡一郎 先生
杏林大学医学部
精神神経科学教室 教授

岩田 仲生 先生

岩田 仲生 先生
藤田医科大学医学部
精神神経科学講座 教授

石郷岡 純 先生

石郷岡 純 先生
CNS薬理研究所
主幹

渡邊先生
 ラツーダで精神科治療はどこまで変わるか、岩田先生はどのようにお考えですか。

岩田先生
 ラツーダは、海外ではすでに使われており、治療の主流になっています。また、ラツーダの開発以降、他のSDAの開発試験はほとんど行われていない状況です。このラツーダの登場で、今後、日本の精神科治療も大きく変わっていくだろうと思います。渡邊先生はどのように考えていらっしゃいますか。

渡邊先生
 私はアドヒアランスに影響を及ぼすと言われている副作用が少ない印象のあるラツーダに興味を持っています。したがって、一般的にアドヒアランスがよくないといわれている統合失調症および双極性障害うつにおいて、ラツーダがどのようなメリットをもたらすのか期待しています。

岩田先生
 続いて、石郷岡先生にお伺いしたいと思います。先生は、統合失調症と双極性障害の両方の試験の医学専門家として長年ご尽力されてきました。先生の観点から、これらの治療は今後どう変わっていくとお考えですか。

石郷岡先生
 ラツーダは、統合失調症と双極性障害うつのふたつの疾患を対象とした臨床試験で有効性が検証できたことをまずは評価しています。また、ラツーダは鎮静を起こしにくい印象があり、これも、両疾患の治療にメリットをもたらすだろうと考えています。

岩田先生
 ぜひ、ラツーダを日本で育てていきたいですね。

いかがでしたでしょうか。次回は、「治験調整医師が解説、JEWEL試験とは」、「ラツーダの統合失調症薬物治療におけるポジショニングとは」の模様をお届けします。

Latuda

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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