【POINT.1】アドヒアランス不良の患者さんの存在を医師に情報提供

篠原 久仁子 氏フローラファーマシーグループ 薬局 恵比寿ファーマシー(東京都)/ 代表取締役・薬学博士

非常時には特に薬剤師がフォローアップを強化するべき

昨年からの新型コロナウイルスの感染拡大によって、薬剤師の任務が改めて問われています。

今回のようなパンデミックや災害時には、どうしても慢性疾患の外来が縮小されます。糖尿病患者さんの処方箋も軒並み90日処方になりましたし、「0410対応」によってオンライン・電話による診察を受けて、薬を薬局で受け取る患者さんが急増しました。医師が検査や診察を行えない状況だからこそ、薬局薬剤師がしっかりとした服薬期間中のフォローアップをする必要があります。

一方で、2019年の薬剤師法の改正によって、「必要があると認める場合には、患者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握」することが求められ、薬学的知見に基づく指導を行わなければならないと規定されました。その上で、薬機法改正で服薬期間中のフォローアップが義務化されたわけです。さらに、2020年4月の調剤報酬改正で「調剤後薬剤管理指導加算」が新設されました。この加算は、調剤後のフォローアップを初めて評価したという点で、とても画期的だったと私は受け止めています。

特に調剤報酬上で、インスリン製剤とSU剤を使用している患者さんに対しては、薬剤師の介入が不可欠と国が判断したのですから、こうした患者さんに対し薬剤師は、しっかりフォローアップしていく必要があると考えています。

ただし、算定する上では条件が課されています。地域支援体制加算の届出を行っている薬局しか算定できません。つまり、言葉を換えますと、医療機関と連携体制が構築している薬局だけしか算定できないのです。しかも、「処方医に了解を得たとき又は保険医療機関の求めがあった場合」という縛りが掛けられていますので、薬剤師の判断で勝手に行うことはできません。

こうした幾つかのハードルが設けられているのですが、当薬局のグループでは全店舗で医療機関からの依頼を受けて調剤後薬剤管理指導を行い、算定もしています。それには理由があります。というのは、「調剤後薬剤管理指導加算」が新設される10年以上前から、介入が必要と判断した患者さんをしっかりフォローアップし、その内容を医療機関に情報提供し、連携により臨床アウトカムの改善効果をもたらした実績があるからなのです。当薬局が行っているフォローアップの内容を医療機関にお伝えした上で、「残薬のある気に掛かる患者さんがおられました」という情報を提供し、理由に応じた介入を行うことで改善した研究効果が得られました。その方法論を用いて、茨城や恵比寿をはじめ全国のより多くの患者さんの服薬状況が改善できるように取り組んでいきたいと思っています。

フォーマットを決めて医師に情報提供するメリットは二つある

ただ、医師の先生方は大変にお忙しいですから、書面で情報提供したとしても、問題点を明確に指摘しませんと読んでいただけません。そのため、残薬のある患者さんについては、私どもの薬局の介入研究を元に、くすりと糖尿病学会の手引きを用いた一定のフォーマットで情報提供するようにしました。

フォーマットを決めることには、二つのメリットがあります。まず、一定の形式で情報提供することで、医師に要点が伝わりやすく、理解が早まります。それが、最大のメリットです。同時に、薬局にとっても意義があり、形式を決めることで慣れない新人薬剤師でも問題の見落としを防ぎ、情報を提供できるようになります。その結果、服薬支援が必要な患者さんを、一人でも多くサポートできるようになるメリットがあります。

言うまでもありませんが、糖尿病患者さんの残薬と本当の服薬状況の情報は、医師にとっては大変貴重です。医師は、患者さんが薬を飲んでいることを前提に診察します。例えば、服薬中にもかかわらずHbA1cが高くなれば、別の薬を追加や増量することを考慮します。ただ、飲めていないことを医師がご存じないと、薬の種類ばかりが増えてしまい、ポリファーマシーに陥ってしまいます。従って、残薬になる理由を薬剤師がアセスメントし、それを医師に情報提供しなければ、残薬の問題は根本的には解決しません。残薬が生まれる理由を把握しないまま日数分をただ調整しても、その時だけは残薬が解消しますが、原因が解決されていないのですから、残薬問題を繰り返すことになってしまいます。