【第2回】「この薬、強いですか?」

山本 雄一郎氏I&H株式会社 学術研修部長 / 有限会社アップル薬局 代表取締役 / 熊本大学薬学部 臨床教授


高血圧でカンデサルタン錠4㎎を継続しているBさん、今日は表情が冴えません。特に変わりはありません、と言いつつも非言語情報はそうではないようです。永く感じる沈黙を経て、Bさんが絞り出したコメントはこうでした。「この薬、強いですか?」

件の薬が強いかどうか。この場合、それは問題ではありません。この薬には2㎎、4㎎、8㎎、12㎎とあって、4㎎だからどちらかと言えば弱い方ですよ、なんて説明をしても、それは解答にはならないでしょう。きっとBさんは、またいつか同じ質問を繰り返すことに...。ではどうすれば。そんなときは「答え」ではなく「応え」るのです。

“そんなときは「答え」とはまったく異なる「応え」が必要なのです。「答え」と「応え」は違います。これは英語にするとよく分かります。解答は、英語でanswer(アンサー:答え)ですね。でも、ある人に一生懸命話しても「手応えがない」というときもあります。こちらは、answerではなくresponse(レスポンス:応え)です。
「答え」をもたらそうとする「説明」はしばしば一面的で表層的なものです。そうしたときの説明の多くは、出来事を言葉で語れることに集約してしまうからです。言葉にならないものを見過ごしていることがあるかもしれない。”
―若松英輔 著「14歳の教室 どう読みどう生きるか」NHK出版,p35-36,2020より

Bさんはどうして僕にそう尋ねたのでしょう。聞くと、まったく同じ薬を飲んでいる友人は、心不全と診断されて服用しており、そういえば薬の説明書にも“高血圧の薬です”と並んで“心不全の薬です”という説明文があります。もしかして、この薬は強い薬なのではないか、私が飲み続けても大丈夫なのだろうかと不安に思ったとのことでした。

薬識という概念があります。薬の知識ではなく、薬に対する認識です(図)。Bさんは友人との何気ないやり取りを経て、カンデサルタンを私には強い薬なのかもしれないと認識しています。これがBさんのカンデサルタンの薬識です。このままではいつかBさんは服薬をやめてしまうかもしれません。この不安を伴った薬識をケアする必要があることは言うまでもありません。

薬識に注目する、じつはこれも第1回同様、Do処方時の薬学的な患者アプローチになります。患者の薬がずっと同じであっても、患者の薬識が同じであるとは限りません。いや、むしろ友人との会話程度でゆらいでしまう、そんな程度のもの。そして、厳しいことを言うならば、薬識という概念がない薬剤師には、薬剤師としてすべきこと、それ自体が見えていないのかもしれません。

  • 参考文献 「誰も教えてくれなかった実践薬歴」(山本雄一郎 著/じほう)いつも同じ処方なので薬歴に書くことがありません,p55,2018