【テーマ:COVID-19①】
COVID-19急性呼吸窮迫症候群とICU退院後の患者家族の心的外傷後ストレス障害症状との関連

JAMA, 327, 1042-1050, 2022 Association of COVID-19 Acute Respiratory Distress Syndrome With Symptoms of Posttraumatic Stress Disorder in Family Members After ICU Discharge. Azoulay, E., Resche-Rigon, M., Megarbane, B., et al.

背景

COVID-19に罹患し入院を要した患者のうち5人に1人は集中治療を要するとされており,生存者では身体,認知機能,精神のそれぞれにその影響が生じることが多い。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を罹患した患者の家族は,心的外傷後ストレス障害(PTSD),不安,抑うつ気分などをはじめとする精神的な負荷を呈するリスクが上がることも知られている。しかし,COVID-19が具体的にどのような影響を家族の精神状態に与えるかはまだ十分に調べられていない。

そこで本研究では,ICUを有するフランスの23の施設においてCOVID-19 ARDSによる入院と,入院患者の家族のPTSDとの関連について,それ以外の疾患によるARDSと比較することで検討を行った。

方法

発症してから1週間以内に急性低酸素血症性呼吸不全に進行し,PaO2/FIO2が300未満となり,胸部X線写真において両側陰影が認められた患者を対象とした。患者の家族は,患者の生死にかかわらず,最もICUへの滞在が長かった成人を対象とした。

ICU退院から少なくとも1ヶ月以上後に,電話もしくは郵便にて,電話での聞き取り調査に対する同意を取得し,身体的・精神的・感情的ウェルビーイング,ICU入室体験による負荷などについて評価を行った。具体的には,PTSD関連症状はImpact of Event Scale Revised(IES-R),精神症状はHospital Anxiety and Depression Scale(HADS),生活の質(QOL)は36項目版Short Form Health Survey(SF-36)を用いて評価した。ARDSの原因がCOVID-19によるものかどうかで患者を2群に分類した。

主要評価項目は,患者の家族におけるIES-Rによって評価したPTSD関連症状とした。副次評価項目は,患者の家族におけるHADSにて評価した不安及び抑うつ症状とした。これらの評価はICU退院から90日後に行った。

結果

1,418名のICU入院患者のうち930名の患者及び家族の適格性を調査し,最終的に307名の患者と602名の患者家族が参加に同意した。

602名の患者家族のうち,517名が電話での聞き取り調査に応じた。PTSD関連症状はCOVID-19 ARDS群で,非COVID群と比較して有意に多く認められた[COVID群35%(103/293) vs 非COVID群19%(40/211),p<0.001]。不安症状及び抑うつ症状も同様にCOVID-19 ARDS群で有意に多く認められた[不安:COVID群41%(121/294) vs 非COVID群34%(70/207),p=0.05;抑うつ:COVID群31%(91/291) vs 非COVID群18%(37/209),p<0.001]。また,患者本人が死亡している場合も同様にCOVID群で有意にPTSD関連症状は多く認められた(COVID群63% vs 非COVID群39%,p=0.008)。更に,希望したような葬儀を行えなかったと報告した家族はCOVID-19群で有意に多かった(COVID群57% vs 非COVID群4%,p<0.001)。

考察

本前方視的研究では,ICU退院から90日後の患者家族のPTSD,不安,抑うつ症状はCOVID-19 ARDS群で有意に多く認められることが示唆された。この結果の原因として,ウイルス感染を防ぐための厳しい隔離措置や,パンデミックによる患者数の増加に起因するICUスタッフの負担など,様々なものが考えられる。また,ICUが閉鎖的な診療スペースであると認識されている場合,来院者は歓迎されないと感じ,それに伴ってPTSD,不安,抑うつ症状を引き起こす可能性も懸念される。以上より,ICU滞在中のソーシャルサポートの認知は,家族の転帰と関連する重要な因子であると言える。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(和田 真孝)

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