【テーマ:COVID-19②】
COVID-19パンデミックにおける強迫症

J PSYCHIATR RES, 149, 114-123, 2022 Obsessive-Compulsive Disorder during the COVID-19 Pandemic. Van Ameringen, M., Patterson, B., Turna, J., et al.

背景

強迫症(OCD)患者は,公衆衛生上の勧告とOCD症状が重なるため,パンデミックにおける精神衛生上の影響に対して特に脆弱であると考えられる。COVID-19のパンデミックの結果,より頻回で「適切な」手洗い技術と洗浄,及び消毒剤の使用を奨励する公衆衛生上の要求が広まったことは,曝露反応妨害治療を受けているOCD患者を混乱させた可能性がある。これらの指示は彼らの強迫観念と一致しているが,公衆衛生ガイドラインは彼らの主治医からの治療指示に反するものである。このように,パンデミックにおいて,正常な汚染除去の習慣と病的なOCD行動を区別することは困難であると思われる。

本研究では,国際的な横断型オンライン自己報告式調査を用いて,パンデミックがOCD患者に与える心理的影響を包括的に検討した。本研究の主な目的は,COVID-19のパンデミックがOCD症状の重症度,不安・抑うつ症状,機能障害に与える影響を理解することとした。

方法

オンライン調査票のリンクを,Facebook,Twitter,RedditといったSNS,MacAnxiety Research Centreのウェブサイト,OCD国際学会のウェブサイトなどに掲載した。研究データは,2020年5月~2021年7月に,Research Electronic Data Captureを用いて,英語・イタリア語・ポルトガル語で収集した。組み入れ基準は,16歳以上であること,英語,イタリア語,ポルトガル語のいずれかを理解できること,人生のある時点でOCDと診断されたこと,とした。

参加者は,年齢,居住地域,学歴,職業,生活形態などの人口統計学的情報を提供した。また,精神疾患歴,特に過去/現在の治療状況,COVID-19パンデミック発生以降の薬の用量/頻度の変化,そしてOCDに関して参加者に質問した。更に,パンデミック体験,特にCOVID-19が行動パターンや感情,その他のストレス要因にどのような影響を与えたかについて質問した。また,認知された精神的サポートについてスクリーニングを行った。精神症状については,過去1ヶ月間の強迫症状の評価には強迫症質問紙改訂版(Obsessive Compulsive Inventory-Revised:OCI-R),過去2週間の不安症状の評価には全般不安症7項目尺度(General Anxiety Disorder-7:GAD-7),過去2週間の抑うつ症状の評価にはこころとからだの質問票(Patient Health Questionnaire-9:PHQ-9),仕事・社会生活/活動・家庭生活/家事における現在の障害レベルの評価にはシーハン障害尺度(Sheehan Disability Scale:SDS)を用いた。

結果

1,067名が調査を開始し,少なくともOCI-Rまでは417名(39%)が完了した。性別は75%が女性で,平均年齢は31.4±11.3歳であった。居住地は北米が56%と最も多く,南米が22%,残りの22%は欧州と報告した。全ての症状の重症度尺度の平均点は,臨床的に有意な閾値を超えており,OCI-Rは28.9±12.4であった。OCI-R Washing Subscaleの評点に基づくと,32.9%が強い汚染症状も報告した。ほとんど(76%)は,パンデミックの第一波の間にOCD症状が悪化し,侵入思考と儀式の両方が増加したと報告した。70%近くが現在OCD治療を受けており(56%が薬物療法,43%が心理療法),このうち45%がパンデミック中に治療の用量や頻度を増やしたと報告した。併存疾患率も高く,80.1%が少なくとも一つの併存疾患の評価尺度基準を満たした。73.4%がGAD(GAD-7>9),69.5%がうつ病(PHQ-9>9)の可能性が高いというものであった。SDSによる機能障害の割合も高く,86.1%が仕事/学校,社会生活,家庭生活/責任のいずれかの領域で著しい障害を報告している。

OCD悪化の予測因子としては,40歳未満であること(p<0.01),GADまたはうつ病(MDD)が併存していること(p<0.001),汚染症状が強いこと(p<0.01)が挙げられ,欧州在住者は症状の悪化リスクの低下と関連していた(p<0.05)。同様に,パンデミック時にOCD治療(薬理学的または心理学的)が増加する有意な予測因子は,GADまたはMDDの併存(p<0.01)と高い汚染症状を有すること(p<0.05)であった。

認知された感情的サポートに関しては,OCI-R評点が高い人(>20)と汚染症状が強い人では,認知された感情的サポートが有意に少なく,また,COVID-19に感染することや他者に感染させること,及び愛する人がCOVID-19に感染することへの不安も大きかった。

結論

本研究の結果によって,COVID-19のパンデミックがOCD患者の症状に深刻な影響を与えたことを示す更なるエビデンスが得られた。これらの人々は,パンデミックに関連したメッセージや制限によってもたらされる症状の悪化や再燃において特に脆弱であった。臨床医は,この困難な健康危機の中で,OCD患者に対して,より微妙な治療アプローチの必要性を認識することが重要である。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(グナリディス 愛)

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