統合失調症患者における抗精神病薬治療の一次性のアドヒアランス不良

SCHIZOPHR BULL, 48, 655-663, 2022 Primary Nonadherence to Antipsychotic Treatment Among Persons with Schizophrenia. Lieslehto, J., Tiihonen, J., Lähteenvuo, M., et al.

背景

統合失調症では,治療継続性が低いと患者の予後は悪化し,治療継続の改善は生活の質(QOL)向上と関連するため,アドヒアランス不良を理解することは重要である。過去の系統的レビューでは,抗精神病薬のアドヒアランス不良は25%と推定されている。より客観的な方法で得られたデータとして,過去(1998~1999年)に薬局での大規模なリフィル登録研究(63,214名)があるが,新規抗精神病薬や持効性注射剤(LAI)は含まれていない。

そこで本研究では,全国データベースを用いて,外来通院中の統合失調症患者における抗精神病薬の一次性のアドヒアランス不良を調査し,その程度や関連する因子,薬剤の種類や投与経路による違いを明らかにすることとした。

方法

フィンランドで1972~2014年に統合失調症と診断され,2015年1月1日に生存していた65歳未満の全ての患者を対象とした。ICD-10のコードF20とF25,ICD-8及びICD-9のコード295によって,統合失調症と統合失調感情障害の患者を同定した。2015~2016年に電子処方箋(全処方箋の約94%を網羅)で抗精神病薬を処方された外来診療中の患者29,956名を抽出した。

抗精神病薬の一次性のアドヒアランス不良は,抗精神病薬を処方され,処方箋の有効期間である1年以内に薬局で調剤されなかった場合と定義し,これを主要転帰とした。

抗精神病薬のアドヒアランス不良に関連する社会人口統計学的及び臨床的因子をロジスティック回帰で評価した。また,抗精神病薬に関するネットワークメタ解析の結果に基づく各薬剤の有効性・忍容性とアドヒアランス不良の関連も調べた。

結果

対象の平均年齢は41.8歳で,男性が約半数(15,473名)で,罹病期間は患者の約半数で20年以上であった。患者の31.7%(9,506名)がアドヒアランス不良に該当した。

アドヒアランス不良と関連する因子として,若年[補正オッズ比(aOR)=1.77,95%信頼区間(CI):1.59-1.96],女性(aOR=1.13,95%CI:1.08-1.19),診断から5年未満(aOR=1.13,95%CI:1.08-1.19)が有意であった。また,心血管疾患(aOR=1.12,95%CI:1.05-1.19 ),糖尿病(aOR=1.15,95%CI:1.06-1.25),喘息・COPD(aOR=1.14,95%CI:1.04-1.25),物質依存(aOR=1.26,95%CI:1.19-1.35),自殺企図(aOR=1.21,95%CI:1.11-1.31)の既往,ベンゾジアゼピン(aOR=1.47,95%CI:1.40-1.55)や気分安定薬(aOR=1.29,95%CI:1.21-1.36)の併用もアドヒアランス不良に関連していた。

全抗精神病薬処方箋のうち,未調剤のものは7.39%であった。未調剤の件数はクロザピン(4.77%)やリスペリドンLAI(5.47%)では少なく,ハロペリドール経口剤(17.03%)やクエチアピン経口剤(11.39%)で多かった。経口抗精神病薬(10.26%, 95%CI:10.02-10.49)はLAI(7.27%,95%CI:6.85-7.71)に比べて未調剤の件数が多かった(p<0.0001)。薬剤の有効性(R2=0.42,FDR補正p=0.024)及び忍容性(R2=0.53,FDR補正p=0.021)は,解析した抗精神病薬においていずれもアドヒアランス比に関連していることが明らかとなった(図)。

結論

統合失調症患者における抗精神病薬治療の一次性のアドヒアランス不良を評価し,約3分の1の患者がアドヒアランスに問題を抱えていることが明らかになった。本研究は全国規模の登録データを用いることによって高い一般化可能性を有すると共に,電子記録を用いて,処方された薬が調剤されたか否かを客観的に確認した。ただし,調剤された薬剤を処方通りに服薬しない患者もいるため,アドヒアランス不良の程度を完全には把握できていない点には注意が必要である。

統合失調症患者の併用薬(特にベンゾジアゼピン系)や併存疾患を考慮しながら薬剤や投与経路を選択することや,副作用が少なく有効性の高い抗精神病薬を処方することが,アドヒアランス向上に重要な役割を果たすと思われる。

図.全般的な有効性(左)および忍容性(右)と、使用者数に対する未調剤処方箋割合の比との関係

256号(No.4)2022年10月14日公開

(谷 英明)

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