慢性統合失調症の脳構造画像に関する機械学習アルゴリズムの早期臨床段階精神病及び自閉スペクトラム症への適用:マルチプロトコール画像データセット研究

SCHIZOPHR BULL, 48, 563-574, 2022 Application of a Machine Learning Algorithm for Structural Brain Images in Chronic Schizophrenia to Earlier Clinical Stages of Psychosis and Autism Spectrum Disorder: A Multiprotocol Imaging Dataset Study. Zhu, Y., Nakatani, H., Yassin, W., et al.

背景

慢性統合失調症(ChSZ)と健常対照者(HC)では脳解剖学的差異が認められることが報告されており,初回エピソード精神病(FEP)や精神病の超ハイリスク(UHR)等の統合失調症の異なる段階においても前側頭領域の灰白質減少等が報告されている。また,統合失調症と自閉スペクトラム症(ASD)間でも,神経解剖学的な変化が部分的に共通している可能性があることも報告されている。

構造的核磁気共鳴画像(MRI)を用いた機械学習アプローチは,精神疾患の分類に有益であるが,早期臨床段階の精神病や他の疾患スペクトラムへの適用性は不詳である。よって,本研究では,ChSZとHCを区別する機械学習モデルが,FEP,UHR,ASDなどにも適用できるかどうかを評価した。

方法

統合失調症スペクトラム154名(UHR 37名,FEP 24名,ChSZ 93名),ASD 64名,HC 141名(HCでは,性別,年齢,病前知能指数をChSZとマッチ)の計359名のT1強調MRIスキャンを,三つの撮影プロトコルで取得した。モデルの性能を評価するために,データをトレーニング,検証,独立確証,独立群の四つのデータセットに分割し,2段階アプローチ法を適用した。二つのプロトコルを用いたデータ(ChSZ 83名,HC 113名)から,無作為に90%のデータ[ChSZ(75名)とHC(101名)]を選別して分類器を構築した(トレーニングデータセット)。残りのデータは,分類器の評価に使用した[検証データセット(ChSZ 8名, HC 12名),独立確証データセット(ChSZ 10名,HC 28名),独立群データセット(UHR 37名, FEP 24名,ASD 64名)]。

スキャナーとプロトコルの差異による影響は,ComBat(ハーモナイゼーション法)を使用して減少させた。

解析方法として,分類器の予測性能について曲線下面積(area under the curve:AUC)を算出し,分類器の予測性能とカイ二乗検定を,検証・独立確証・独立群データセットの分類されたラベルに適用した。サポートベクターマシーン(SVM)による決定スコアは,超平面に対応する全てのサンプルについて別々に分散分析を用いて検定した。事後比較検定としてBonferroni法を採用した。

結果

検証データセットと独立確証データセットに対する分類器の精度は,それぞれ75%(AUC=0.88)と76%(AUC=0.82)であった。下前頭回三角部,上前頭回,楔部,上後頭回,被殻,淡蒼球を含むクラスターがChSZの識別に寄与していた。また,下頭頂回,下後頭回,上頭頂回,中前頭回などのクラスターは,HCの同定に寄与した。

独立群データセットにおいて,ASD群とUHR群は,よりHC群に分類されやすく(HCへの分類率:ASD 81%,UHR 59%,補正後p<0.01),FEP群はChSZ群に分類されやすかった(ChSZへの分類率:46%,補正後p<0.01)。UHR群はASD群に比較して,よりChSZ群に分類されやすかった(補正後p<0.01)。また,5群について決定スコアの有意な主効果が認められ(p<0.001),多重比較の結果,UHRはFEPと近いが,HC,ASD,ChSZとは異なることがわかった(HC<ASD<UHR及びFEP<ChSZ;補正後p<0.001)。

結論

本研究における分類器の予測情報は,神経画像技術を臨床の鑑別診断に応用し,疾患の発症を早期に予測するために有用であると考えられる。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(吉田 和生)

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