統合失調症患者における慢性期抑うつと転帰との関連

PSYCHOPHARMACOLOGY, 239, 965-975, 2022 Association between Depression in Chronic Phase and Future Clinical Outcome of Patients With Schizophrenia. Yamada, Y., Yamauchi, Y., Sakamoto, S., et al.

目的

統合失調症患者では抑うつが約25%に認められ,自殺による生涯死亡率は約5%と報告されている。統合失調症の慢性期に出現する抑うつと,臨床尺度によって評価された転帰との関連はこれまでに調査されていない。著者らは,慢性期統合失調症における抑うつの病歴及び自殺関連症状と転帰との関連,及びどの種類の向精神薬が転帰を改善するかについて,多数の交絡因子を調整した上でコホート調査を行った。

方法

対象はICD-10における統合失調症の診断基準を満たし,2010年1月から2011年12月までに岡山大学で治療を行った,15歳から64歳までの外来患者462名である。統合失調症の転帰の評価には臨床全般印象度‐重症度尺度(Clinical Global Impression-Severity scale:CGI-S)を用いた。患者が抑うつ気分を訴え,それが統合失調症の発症2年後以降に2週間以上続いていると担当医が記載した場合を本研究では慢性期抑うつと定義した。

病歴に含まれる交絡因子(年齢,性別,20歳未満の発症,統合失調症の家族歴,直近の就労,定型抗精神病薬,抗うつ薬,炭酸リチウム,気分安定薬としての抗てんかん薬の使用歴,クロルプロマジン等価換算1,000mg以上)について調整して,重回帰分析とロジスティック回帰分析を行った。

結果

対象462名のうち発症2年(平均19.2年)後に慢性期抑うつの診断基準を満たした患者は168名(36.4%)であった。慢性期抑うつが併存する患者では,併存しない患者と比較し定型抗精神病薬の使用頻度が少なかった[前者30/168名(17.9%)に対し後者88/294名(29.9%),p=0.0026]。

女性は男性に比し慢性期抑うつの併存率が高かった[オッズ比(OR):1.575,95%信頼区間(CI):1.061-2.338,p=0.024]。統合失調症の家族歴は慢性期の希死念慮の存在と有意に関連していた(OR:2.019,95%CI:1.012-4.030,p=0.046)。

また,女性は男性に比し転帰は良好であった(β=-0.31,95%CI:-0.509--0.111,p=0.002)。統合失調症の家族歴(β=0.44,95%CI:0.129-0.752,p=0.006),早期発症(β=0.366,95%CI:0.133-0.600,p<0.001)は転帰の不良と関連していた。

慢性期の希死念慮(β=0.309,95%CI:0.0305-0.587,p=0.03)と慢性期の自殺企図(β=0.467,95%CI:0.103-0.831,p=0.012)の既往は転帰の不良と関連していた。慢性期抑うつの病歴は転帰と有意な関連を示さなかった。男女別では,男性で慢性期抑うつ(β=0.362,95%CI:0.0260-0.698,p=0.035),慢性期希死念慮(β=0.598,95%CI:0.192-1.004,p=0.004),慢性期自殺企図(β=1.079,95%CI:0.488-1.670,p<0.001)のいずれも転帰の不良と関連していたが,女性では有意な関連は認められなかった。

慢性期抑うつが併存している統合失調症患者では,炭酸リチウムの使用歴は良好な転帰と関連しており(β=-0.617,95%CI:-1.130--0.103,p=0.019),男性のみで有意な関連を示した(β=-1.893,95%CI:-3.101--0.684,p=0.003)が,女性では示されなかった。慢性期抑うつや自殺関連症状の病歴のある統合失調症患者では,抗うつ薬[選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)/セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)/ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)/三環系等]の使用歴は転帰と関連を示さなかったが,男性のみで良好な転帰と関連し(β=-0.7,95%CI:-1.293--0.107,p=0.022),女性では関連を示さなかった。慢性期抑うつや自殺関連症状の病歴のある統合失調症患者では,定型抗精神病薬や抗てんかん薬の使用歴は転帰と関連を示さなかった。

結論

本研究の限界としては,サンプルサイズが小さいことや,評価尺度がCGI-Sに限られること等が挙げられる。

統合失調症の慢性期抑うつや自殺関連症状により,その後の転帰の不良が予測できることが示された。炭酸リチウムと抗うつ薬が,特に男性患者に対して推奨される。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(久江 洋企)

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