精神病の臨床的ハイリスク状態と最近発症したうつ病における,役割機能の転帰を予測するための環境‐臨床混合分類モデルの使用

BR J PSYCHIATRY, 220, 229-245, 2022 Using Combined Environmental–Clinical Classification Models to Predict Role Functioning Outcome in Clinical High-Risk States for Psychosis and Recent-Onset Depression. Antonucci, L. A., Penzel, N., Sanfelici, R., et al.

背景

精神病の臨床的ハイリスク状態は,機能障害やうつ病性障害と関連している。本研究の目的は,精神病やうつ病との関連が報告されている環境因子情報を追加することで,既存の臨床データと構造的核磁気共鳴画像(MRI)データに基づく役割機能(学業及び職業上の機能)予測モデルを拡張することである。

方法

早期精神病管理のための個別化予後ツール(PRONIA)研究のデータベースから,機能障害の経過が共通している精神病臨床的ハイリスク状態と最近発症したうつ病のデータを使用した。基準時点の構造的MRI,環境情報,基準時点及び6~12ヶ月後の追跡時の社会・役割機能評点(臨床データ)を抽出した。全般機能:役割(GF:R)尺度を用いて,6~12ヶ月の追跡期間内における最新の状態を評価し,文献に基づく閾値で役割機能が低いか高いかを定義した。

臨床因子は,基準時点における合計八つの全般機能:社会とGF:Rの評点から算出した。環境因子は,幼少時から成人までにおける外傷体験やいじめが関連する六つの評価尺度から算出した。構造的MRI因子は,全脳灰白質容積から算出した。

結果

精神病臨床的ハイリスク状態群(図,上段左)では,環境危険因子と臨床危険因子のみが,leave-site-out cross-validated balanced accuracy(BACLSOCV)に従ってGF:Rを偶然よりも有意に正確に予測した(環境モデル:BACLSOCV=66.4%,PFDR=0.01;臨床モデル:BACLSOCV=67.3%,PFDR=0.04)。環境,臨床,構造的MRIの予測を統合した多面的因子は,全ての単危険因子よりも正確であり(BACLSOCV=71.2%,PFDR=0.01,AUC=0.75),環境予測と臨床予測を統合したモデル(BACLSOCV=65.4%,PFDR=0.04,AUC=0.70)がそれに続いた。最近発症したうつ病群(図,上段右)で,GF:Rの結果を偶然以上に予測する単危険因子はなく,環境予測と臨床予測を統合した積算モデルのみが有意な予測能を示した(BACLSOCV=58.9%,PFDR=0.04,AUC=0.60)。

精神病臨床的ハイリスク状態と最近発症したうつ病を統合した探索的サンプル(図,下段)では,臨床危険因子は偶然を上回って有意にGF:Rの結果を予測した(BACLSOCV=64.8%,PFDR=0.02,AUC=0.72)。研究グループ別の臨床モデルと,環境データと臨床データを組み合わせた多面的危険因子は,精神病臨床的ハイリスク状態と最近発症したうつ病のそれぞれの再現サンプルにおいて,偶然の結果を上回った(精神病臨床的ハイリスク状態:臨床モデルBACLSOCV=67.3%,AUC=0.76,環境・臨床積算モデルBACLSOCV=67.7%,AUC=0.76;最近発症したうつ病:臨床モデルBACLSOCV=70.5%,AUC=0.81,環境・臨床積算モデルでBACLSOCV=62.5%,AUC=0.72)。

考察

本研究では,臨床情報と環境情報を組み合わせた症候群特異的及び診断横断的な予測モデルを検討し,これによりいくつかの独立したサンプルにおいて,中程度の精度で役割の転帰を予測することが可能であった。臨床情報と環境情報を組み合わせた予測モデルの性能は,サンプル間で安定しているものの高くないため,今後の研究では,既存の多面的危険因子の検証を更に進め,医療現場での適用度を十分に評価すると共に,モデルの比較可能性及び再現性に関するガイドラインを定義するのに努めることが望まれる。

本研究の限界としては,先行研究と直接比較できないこと,サンプルサイズが小さく潜在的な性別の影響を検証できなかったこと,較正結果が比較的低かったことが挙げられる。

図.モデルとサンプル間のbalanced accuracies(BACs)のプロット

256号(No.4)2022年10月14日公開

(櫻井 準)

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