妊娠中の抗うつ薬服薬による新生児への有害事象の包括的調査

ACTA PSYCHIATR SCAND, 145, 544-556, 2022 Antidepressant Use during Pregnancy and Risk of Adverse Neonatal Outcomes: A Comprehensive Investigation of Previously Identified Associations. Rommel, A.-S., Momen, N. C., Molenaar, N. M., et al.

背景と目的

妊娠中の抗うつ薬の服薬は,2~13%程度と一般的に行われている。一方で,胎児への影響の恐れから,母親の50%は妊娠前または妊娠中に抗うつ薬を中止すると報告されている。妊娠中の抗うつ薬の服薬が胎児に及ぼすリスクについては,在胎週数,早産,出生時低体重または在胎不当過少(SGA),新生児不適応,新生児遷延性肺高血圧症(PPHN),新生児集中治療管理室(NICU)への新生児入院,先天奇形などを転帰とした研究のメタ解析が複数報告されている。しかし,交絡因子の調整が不十分であるため,いずれの転帰についても明確な結論は出ていない。本研究では,重要な交絡因子を調整した上で,上記の転帰について妊娠中の抗うつ薬への曝露との関連を包括的に調査した。

方法

本研究は,デンマークの国民登録データベースを用いた前方視的登録研究である。1997~2015年に出生した新生児1,138,515名を抽出し,母親が妊娠前1年以内に抗うつ薬を服薬していた45,590名(4.0%)を対象とした。更に,妊娠中の抗うつ薬の服薬の有無によって,継続群と中止群とに分類した。母親の特性から幅広く交絡因子を想定し,上記の転帰についてランダム効果ロジスティック回帰分析を行い,妊娠中の抗うつ薬曝露のオッズ比(OR)を算出した。

結果

45,590名の児のうち,母親が妊娠中も抗うつ薬を継続したのは21,914名であった。そのうち選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)単剤が75.0%,SSRI以外での単剤治療が16.9%であった。

在胎週数の平均値は,継続群では274.6日[標準偏差(SD)=14.0],中止群では277.3日(SD=13.5)であった。また,出生時体重の平均値は,継続群では3,403g(SD=589),中止群では3,468g(SD=588)であった。すなわち,妊娠中の抗うつ薬への曝露は,在胎週数を2.3日[95%信頼区間(CI):-2.9--2.0]短縮し,出生時体重を51g(95%CI:-62--41)減少させた。

継続群では中止群と比較して,出生転帰のリスクの調整OR(aOR)が32~37週の中期~後期早産で1.43(1.33-1.55),1,500~2,499gの中等度低体重児で1.28(1.17-1.41),新生児入院で1.52(1.44-1.60),新生児不適応で2.59(1.87-3.59)と,いずれもリスクが上昇した。一方,32週以前の早産,1,500g未満の出生時低体重,先天奇形については,継続群でのリスクの上昇は認められなかった。最も顕著なリスク差があったのは新生児入院で,絶対リスク差は6.3%(95%CI:6.2%-6.4%)であった。

抗うつ薬への曝露が妊娠四半期の第二期もしくは第三期のみに限定された場合は,第一期のみに曝露した場合に比べて,在胎週数短縮のリスクが有意に上昇した。その他の転帰については,曝露の時期による違いはなかった。

SSRI以外の抗うつ薬単剤への曝露では,SSRI単剤への曝露に比べて,在胎週数の短縮,出生時体重の低下,新生児入院のリスクが有意に上昇した。

考察

妊娠中の抗うつ薬への曝露は,在胎週数及び出生時体重のわずかな減少,中期~後期早産,中等度低体重児,新生児入院,新生児不適応のリスクであった。PPHN及び先天奇形については差がなかった。

ただし,精神症状が重症なほど妊娠中にも抗うつ薬を継続したり,SSRI以外の抗うつ薬を服薬したりする傾向を考慮すると,母親の精神障害の重症度自体が交絡因子となっている可能性もあり,抗うつ薬の曝露と新生児有害事象の因果関係は不明である。いずれにせよ,妊娠中の抗うつ薬の服薬には新生児へのリスクがあることを妊娠希望のある患者に対しては説明するべきである。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(荻野 宏行)

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