抑うつ患者における4G-β-Dガラクトシルスクロースの効果:無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較研究

J PSYCHIATR RES, 148, 110-120, 2022 Effects of 4G-beta-D-Galactosylsucrose in Patients With Depression: A Randomized, Double-Blinded, Placebo-Controlled, Parallel-Group Comparative Study. Tarutani, S., Omori, M., Ido, Y., et al.

背景

抑うつは全世界的に重大な問題であり続けており,今後は高所得国でより問題となっていくであろうにもかかわらず,現行の各種治療は必ずしも多くの患者に完全な回復をもたらすものではなく,併用療法によっても寛解率は46%にとどまっている。

近年の脳科学や分子生物学における進歩の中で,脳と腸管の間の双方向的な関係(腸脳相関)の存在が明らかになってきた。腸内細菌叢が精神障害や行動に影響している可能性も示唆されるようになり,抑うつに対する細菌叢‐腸‐脳の関係に関する仮説の出現を見た。

4G-β-Dガラクトシルスクロース(ラクトスクロース:LS)は分解や消化をされずに結腸まで到達し,プレバイオティックとしてビフィズス菌に吸収される。これによりビフィズス菌が増えると腸管環境や機能が改善されるが,プレバイオティックの長期間摂取が抑うつ患者にもたらす効果についてはこれまで検証されてこなかった。本研究は抑うつの外来患者に対し,通常治療に加えてLSを24週間投与した際の効果を検討するものであり,抑うつ症状,生活の質(QOL),自己効力感,細菌叢と精神状態との関係について評価した。

方法

単一施設における24週間の無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較研究を実施した。2018年7月~2020年3月に,新阿武山病院の外来に通院中のうつ病(ICD-10のF32基準を満たす)成人患者の中で,Clinical Global Impression(CGI)評点が2以上5未満の患者を,LS群とプラセボ群に割り付けた。精神科の併存障害や,炎症性腸疾患の合併,LSの摂取習慣,組み入れの直近2週間の下痢があった場合は除外した。LS群は3.2g/日のLSを24週間摂取した。その間の食事摂取状況も記録した。

主要転帰は抑うつ症状の改善であり,24週間に生じたモンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale:MADRS)総点数の変化で評価した。副次転帰はMADRS下位尺度の点数,自己記入式簡易抑うつ症状尺度(Quick Inventory of Depressive Symptomatology:QIDS)の評点の変化,自己効力感の改善[一般性セルフ・エフィカシー尺度(General Self-Efficacy Scale:GSES)の点数変化],World Health Organization Quality of Life(WHO/QOL-26)を用いたQOLの変化とした。

細菌叢組成(ビフィズス菌の含有率)の変化を知るために,16S rRNAプロファイルの変化を検討した。変化があった主要転帰・副次転帰については,ビフィズス菌の含有率との相関関係を評価した。

第一種の過誤を防ぐためには25名/群の参加者数が必要と見積もられたが,本研究の参加者は全部で20名であった。

結果

20名の参加者は,LS群に9名,プラセボ群に11名が割り付けられた。年齢の中央値は53歳であり,85%が女性であった。

MADRS総点数には有意な差が認められなかったが,GSES評点はLS群の方が改善が大きい傾向があった。その他の副次転帰については有意な差は認められなかった。

体重や血圧などにも群間差は認められず,LS摂取自体は安全と考えられた。ビフィズス菌の含有率にも有意な差はなく,GSES評点の変化との間にも弱い相関しか認められなかった。

結論

LSの長期摂取により,抑うつ患者の自己効力感が改善する可能性が示唆された。抑うつに対するLSの有効性を確立するためには,食事摂取内容やアドヒアランスをより厳密にモニタリングした多施設の無作為化対照試験(RCT)を用いた更なる検討が必要と考えられた。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(滝上 紘之)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。