双極性躁病に対する薬物療法:二重盲検無作為化対照試験の系統的レビューとネットワークメタ解析

MOL PSYCHIATRY, 27, 1136-1144, 2022 Pharmacological Treatment for Bipolar Mania: A Systematic Review and Network Meta-Analysis of Double-Blind Randomized Controlled Trials. Kishi, T., Ikuta, T., Matsuda, Y., et al.

背景

薬物療法は急性双極性躁病の主な治療法の一つである。本研究では,成人の急性双極性躁病に対する薬理学的介入の有効性,受容性,忍容性,安全性を比較するために,系統的レビューとネットワークメタ解析を実施した。

方法

2021年3月14日以前に発表され,適格基準を満たす研究の検索を行った。成人の躁病患者における10日以上継続した経口薬単剤療法の無作為化対照試験(RCT)を対象とした。試験中に救助薬として抗精神病薬を使用することを認めた研究は除外した。

主要転帰は治療に対する反応と全原因による中止とした。副次転帰は,躁症状の改善と無効による中止とした。転帰評価は3週間または4週間時点とした。

ランダム効果モデルを用いて,ペアワイズメタ解析と確率論的ネットワークメタ解析の両方を実施した。二値変数のリスク比(RR)または連続変数の標準化平均差(SMD)を,95%信頼区間(CI)と共に計算した。

結果

対象となった79のRCTのうち,23の薬剤と72のRCTがメタ解析に含まれた(平均試験期間3.96 ± 2.39週,16,442名,平均年齢39.55歳,男性50.93%)。

アリピプラゾール,アセナピン,カルバマゼピン,cariprazine*,ハロペリドール,リチウム,オランザピン,パリペリドン,クエチアピン,リスペリドン,タモキシフェン,バルプロ酸,ziprasidone*はプラセボより治療反応率が高かった(56試験,14,503名)(表)。RR(95%CI)は,タモキシフェンの7.461(1.876-29.678)からアセナピンの1.281(1.049- 1.563)までの範囲であった。

プラセボと比較して,アリピプラゾール,オランザピン,クエチアピン,リスペリドンは全原因による中止率が低かった(70試験,16,324名)(表)。RR(95%CI)は,オランザピン0.647(0.552-0.758)からアリピプラゾール0.840(0.719-0.980)までの範囲であった。一方,トピラマートでは全原因による中止が多く,RRは1.335(95%CI:1.032-1.728)であった。

プラセボと比較して,アリピプラゾール,アセナピン,カルバマゼピン,cariprazine,ハロペリドール,リチウム,オランザピン,パリペリドン,クエチアピン,リスペリドン,タモキシフェン,バルプロ酸,ziprasidoneは躁症状の改善を示した(61試験,15,466名)。SMD(95%CI)は,タモキシフェンの-1.806(-2.454--1.159)からバルプロ酸の-0.216(-0.371--0.061)までの範囲であった。

プラセボと比較して,アリピプラゾール,アセナピン,カルバマゼピン,cariprazine,ハロペリドール,リチウム,オランザピン,パリペリドン,クエチアピン,リスペリドン,バルプロ酸,ziprasidoneは無効による中止が少なかった(50試験,14,284名)。RR(95%CI)は,パリペリドンの0.349(0.216-0.564)からリチウムの0.716(0.534-0.961)までの範囲となった。

結論

前述の抗精神病薬,カルバマゼピン,リチウム,タモキシフェン,バルプロ酸は成人の急性双極性躁病に有効であった。しかし,プラセボよりも良好な受容性を有していたのは,アリピプラゾール,オランザピン,クエチアピン,リスペリドンのみであった。

本研究の限界としては,メタ解析に含まれる研究に中等度の選択バイアスがあると評価されたこと,精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)では混合エピソード患者が躁病に含まれていないこと,試験期間の範囲が1~12週間のため,薬剤の長期的な有効性と安全性の検証が必要であること,プラセボ反応の大きさが結果に影響を与えるかどうかを検証していないこと,が挙げられた。

*日本国内では未発売

表.治療への反応(左下半分)と全ての原因による中止(右上半分)における直接比較
表.治療への反応(左下半分)と全ての原因による中止(右上半分)における直接比較(つづき)

256号(No.4)2022年10月14日公開

(米澤 賢吾)

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