双極性障害患者における骨粗しょう症とリチウム治療の関連

JAMA PSYCHIATRY, 79, 454-463, 2022 Association of Lithium Treatment With the Risk of Osteoporosis in Patients With Bipolar Disorder. Köhler-Forsberg, O., Rohde, C., Nierenberg, A. A., et al.

背景

骨粗しょう症は罹患率と死亡率が非常に高い慢性の全身性骨格障害であり,双極性障害患者で特に一般的であると思われる。最近の研究では,双極性障害が危険因子の一つとして指摘されている。その一方で,いくつかの小規模な観察研究ではリチウムが骨折のリスク低減と関連することが示されている。今回,双極性障害やリチウムなどの薬物治療と骨粗しょう症のリスクの関連を明らかにするため,デンマークの全国規模の長期登録に基づく研究を行った。

方法

デンマークの全国規模の登録データに基づいて,1996年1月1日~2019年1月1日に双極性障害と診断された全患者を同定した。また,骨粗しょう症のリスクが存在する期間に焦点を当てるため,基準日(index date)を40歳の誕生日(40歳以前に双極性障害と診断を受けた者)または双極性障害発症日(40歳以降に双極性障害の診断を受けた者)と設定した。1996年1月1日以前に双極性障害と診断された者,双極性障害と診断される前に統合失調症もしくは統合失調感情障害と診断されていた者,基準日前に受診して骨粗しょう症の診断または骨粗しょう症の治療薬の処方を受けた者は除外した。これらの双極性障害の患者1名につき,全人口から基準日・性別・年齢を合わせた5人の参照者を無作為に選択してマッチさせた。参照者は基準日までに双極性障害,統合失調症,統合失調感情障害,骨粗しょう症でなかった者とした。

双極性障害と骨粗しょう症の関連については,双極性障害患者は基準日から,参照者はマッチさせた日から,死亡,2019年1月1日,骨粗しょう症発症のいずれかまで追跡した。追跡期間1,000人‐年当たりの骨粗しょう症の発症率を推定し,Cox比例ハザードモデルを用いて双極性障害患者と参照者を比較した。

双極性障害のリチウム治療と骨粗しょう症のリスクについては,リチウムが処方された双極性障害患者と処方されていない患者での骨粗しょう症の発症率をCox比例ハザードモデルを用いて比較した。また,リチウムの骨粗しょう症のリスクに対する用量反応的な影響についてもCox比例ハザードモデルを用いて層別化し,推定した。これらのリチウムの効果に関する全ての解析は抗精神病薬,バルプロ酸,ラモトリギンに置き換え,繰り返し行った。

結果

1996年1月1日~2019年1月1日に診断された双極性障害患者22,912名(年齢中央値50.4歳,女性比率56.6%),参照者114,560名(年齢中央値50.4歳,女性比率56.6%)を同定した。

それぞれの1,000人‐年当たりの骨粗しょう症発症率は8.70[95%信頼区間(CI):8.28-9.14],7.90(95%CI:7.73-8.07)であった。双極性患者では,参照者に対する骨粗しょう症のハザード率比(HRR)は1.14(95%CI:1.08-1.20)であった。

また,リチウム治療を行った場合と行わなかった場合とを比較すると,リチウム治療は骨粗しょう症のリスクを統計学的に有意に低下させることが示された[治療期間を考慮したモデルではHRR=0.62(95%CI:0.53-0.72),intention-to-treatモデルではHRR=0.78(95%CI:0.71-0.87)]。一方で,抗精神病薬,バルプロ酸,ラモトリギンでは骨粗しょう症のリスクに有意な差は示されなかった。また,用量反応の相関解析では,2年以上のリチウム投与のみが骨粗しょう症のリスクを統計学的に有意に低下させることが示された。

結論

本研究の結果では,双極性障害患者は骨粗しょう症の発症リスクが高く,リチウム治療がこのリスクの低下と関連していることが示唆された。これらの知見から,骨の健康状態については双極性障害の臨床管理で優先度を高くすべきであり,リチウムの潜在的な骨保護特性は,双極性障害・骨粗しょう症の両方の観点から更なる研究の対象となるべきであることが示唆されている。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(渡邉 慎太郎)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。