小児双極性障害の疾患特性と初回抑うつエピソード及び抗うつ薬曝露との関連

ACTA PSYCHIATR SCAND, 145, 200-208, 2022 Index Depressive Episode and Antidepressant Exposure Were Associated With Illness Characteristics of Pediatric Bipolar Disorder. Inal, N., Ermis, C., Koc, D., et al.

目的

小児双極性障害(PBD)は18歳未満で発症する早期発症型の疾患であり,急速交代と混合状態を伴い,予後が悪いとされる。また,重度の機能障害をもたらす重篤な再発性の疾患である。初発の気分エピソードは,指標となるエピソード[指標エピソード(index episode)]であり,疾患の長期経過に影響を与える可能性がある。しかし,指標となる気分エピソードとPBDの予後の関係についての知見は乏しく,これまでに,小児及び青年期における指標となる抑うつエピソード(index depressive episodes:IDE)と躁エピソード(index manic episodes:IME)の予後予測に焦点を当てた研究はない。

抗うつ薬は,従来から躁転のリスクと関連し,主要な臨床的懸念事項として扱われてきたが,抗うつ薬と軽躁病・躁病エピソード出現との因果関係の評価は困難であることが多い。

本研究では,PBDの臨床的特徴を調査し,①指標となる気分エピソードの影響,②PBDの躁転年齢に対する過去の抗うつ薬治療の影響を明らかにすることを目的とする。

方法

本研究は後方視的コホート研究である。研究対象は,トルコの六つの地域を代表する七つの大学病院と三つの国立病院の児童・思春期精神科クリニックの入院及び外来患者で,追跡調査を受けた双極Ⅰ型障害の青少年271名であった。全ての診断は構造化面接によって行われ,全てのデータは臨床医によって臨床記録から後方視的に得られたものである。PBDの診断は,Schedule for Affective Disorders and Schizophrenia for School-Aged Children-Present and Lifetime Versionで確認した。

研究対象者をIME群とIDE群に分類した。IME群は,初発の気分エピソードとして,指標となる完全な躁病及び軽躁病エピソードを有する被験者で構成された。IDE群は,指標となる混合型及び抑うつ型エピソードを有する被験者と定義した。

抗うつ薬による治療歴は,青少年と保護者の報告から得て,電子カルテで確認した。両群とも,抗うつ薬治療から最初の軽躁・躁病エピソードまでの期間を算出した。更に,抗うつ薬による治療が躁病発症までの期間を短縮するかどうかという2番目の研究課題のため,IDE群について更なる分析を行った。薬物療法は,精神刺激薬,抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬,三環系抗うつ薬),抗精神病薬(リスペリドン,クエチアピン,オランザピン,アリピプラゾール,クロザピン),気分安定薬(リチウム,バルプロ酸,ラモトリギン)に分類した。

IME群とIDE群で,疾患の縦断的経過を評価した。カテゴリー変数については,両群の比較にカイ二乗検定を実施した。連続変数の正規分布にはKolmogorov-Smirnov検定を使用した。正規分布の数値データの比較には,Student t検定と一元配置分散分析を用いた。正規分布に当てはまらない連続変数については,Mann-Whitney U検定を用いた。カウントデータ(気分エピソードの数)については,2標本のPoisson率検定を行った。

結果

合計271名のPBD患者[56.1%が女性,平均年齢は17.4±2.2歳(11.0~23.0)]が本研究に登録され,142名がIME群,129名がIDE群に分類された。平均臨床追跡期間は26.0±24.4ヶ月であった。教育水準は低く,初等・中等教育修了者は56.6%に過ぎなかった。

全ての種類の気分エピソードの数は,IDE群の方がIME群よりも多かった[sample rate=3.54 vs 2.89,推定差=0.65,95%信頼区間(CI):0.20-1.09,p=0.004]。急速交代型の特徴もIDE群の方がIME群よりも多かった(25.7% vs 13.6%,p=0.022)。

注意欠如・多動症(ADHD)(22.5% vs 15.6%)と不安症(11.6% vs 18.8%)は,IME群とIDE群でそれぞれ最も多く併存する精神科診断であった。いずれの併存疾患についても,群間で有意な差は認められなかった。IME群でIDE群よりも投与頻度が高かったのは,リスペリドン(71.3% vs 53.3%,p=0.003)とオランザピン(44.2% vs 29.5%,p=0.016)であった。IDE群でIME群と比較してより頻度が高かったのはクエチアピン(48.4% vs 30.5%,p=0.004),アリピプラゾール(47.9% vs 24.8%,p<0.001),ラモトリギン(9.0% vs 3.1%,p=0.044)であった。更に,IDE群はIME群と比較して,最初の躁転前に抗うつ薬に曝される割合がより高かった(53.4% vs 29.2%,p<0.001)。発症前の精神刺激薬への曝露については,群間差はなかった(18.6% vs 15.0%,p=0.461)。

社会人口統計学的・疾患学的特徴を調整したCox回帰分析では,抗うつ薬による治療を受けたIDE群の女児は,躁病の発症がより早かった(ハザード比=2.03,95%CI:1.31-3.12,p=0.001)。

結論

本研究では,IDEは,より多くの気分エピソード数と急速交代型疾患の頻度と関連している可能性があることが示された。また,抗うつ薬治療により,うつ病を発症した女児において,最初のうつ病エピソードと躁病エピソードの間の時間が短縮されるかもしれないということがわかった。指標エピソードを特定することは,長期的な治療アプローチの改善に役立つと考えられる。

本研究は,抗うつ薬による治療歴が,青少年,特に女児における躁病の早期発症と関連することを示したトルコにおける初の大規模全国追跡研究である。PBDの背景にある神経発達過程を明らかにし,予防的アプローチを開始するためにはより大規模な前方視的研究が必要である。

2022年8月 [no.4(256号)]

(佐久間 睦貴)

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