健康的な生活スタイルとアルツハイマー型認知症の有無と平均余命:住民ベースのコホート研究

BMJ, 377, e068390, 2022 Healthy Lifestyle and Life Expectancy With and Without Alzheimer’s Dementia: Population Based Cohort Study. Dhana, K., Franco, O. H., Ritz, E. M., et al.

背景

近年,健康的な生活スタイルが認知機能の低下を遅らせ,アルツハイマー型認知症のリスクを低減させるかもしれないという研究結果が増えてきた。生活スタイルの改善は平均余命の延長に繋がるが,認知症の最大のリスクは年齢のため,全体的な認知症の有病率や罹病期間は変わらないか増えるかもしれない。そのため将来の医療費とニーズを十分に計画する必要がある。

著者らは,米国イリノイ州シカゴ南部に住む高齢者の住民コホートデータを用いて,アルツハイマー型認知症の罹病期間に対する生活スタイル因子の影響を明らかにする研究を行った。

方法

本研究はChicago Health and Aging Project(CHAP)のデータのうち,65歳以上で,基準時点においてアルツハイマー型認知症でなかった2,110名と,アルツハイマー型認知症の有病者339名の合計2,449名を対象とした。

本研究では,食事,認知活動,身体活動,喫煙,飲酒の五つの修正可能な生活スタイル因子の情報をもとに,健康的な生活スタイル評点を作成した。食事の質の評価にはMediterranean-DASH Diet Intervention for Neurodegenerative Delay(MIND)diet評点を用いた。認知活動には読書,美術館めぐり,トランプやチェッカー,クロスワード,パズルなどのゲームが含まれ,複合的な認知活動評点を作成した。身体活動については,健康あるいは低リスクの定義を,中程度~活発な活動を少なくとも1週間に150分行っている人とした。喫煙習慣は自己申告で,飲酒量については軽~中程度のアルコール摂取(女性で1~15g/日,男性で1~30g/日)を健康または低リスクと判断した。五つの因子の有無をそれぞれ1点として,合計0~5点の範囲で健康的な生活スタイルの点数とした。この点数により参加者の層別化を行い,認知症の発症率や平均余命を比較した。

結果

13,047人‐年の追跡期間で,439名(20.8%)がアルツハイマー型認知症を発症した。健康的な生活スタイル評点が4または5点の参加者は,0または1点の参加者と比較して,男女共にアルツハイマー型認知症のリスクは低く,死亡率も低かった。

健康的な生活スタイル評点が4または5点の65歳の女性の平均余命は24.2年(95%信頼区間:22.8-25.5年)で,健康的な生活スタイル評点が0または1点の女性よりも3.1年長かった。評点が4または5点の女性では,アルツハイマー型認知症の罹病期間が平均余命の10.8%であったのに対して,評点が0または1点の女性では19.3%であった。男性でも同様に健康的な生活スタイルによって平均余命,アルツハイマー型認知症の罹病期間が異なった。

考察

本研究は,健康的な生活スタイルによる余命の延長には,アルツハイマー型認知症の罹病期間の延長が伴わないことを示唆している。本研究の強みは,住民ベースの研究で長期間の追跡を行い,構造化された神経診察と神経心理検査によってアルツハイマー型認知症の診断をしていることである。

本研究の限界の一つ目は,健康的な生活スタイルの評価は追跡時には行っていないことである。二つ目は,健康的でない生活スタイルの人は研究に参加することが少ないというバイアスや,研究参加前に亡くなっていたという生存バイアスがある。三つ目は,生活スタイル因子の評価が自己申告に基づいていることである。

結論

健康的な生活スタイルは,男女共に余命の延長と関連し,アルツハイマー型認知症にならずに生きられる余命の割合が大きいことが示された。本研究で推定した平均余命は,医療専門家や政策立案者などが将来の医療サービス,医療費などを計画する上で役立つかもしれない。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(髙宮 彰紘)

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