精神障害と認知症の縦断的関連:170万人のニュージーランド市民の30年間の解析

JAMA PSYCHIATRY, 79, 333-340, 2022 Longitudinal Associations of Mental Disorders With Dementia: 30-Year Analysis of 1.7 Million New Zealand Citizens. Richmond-Rakerd, L. S., D’Souza, S., Milne, B. J., et al.

背景

認知症などの神経変性疾患は,高齢者の障害や自立に影響を与える。うつ病は,認知症の予防可能な危険因子の一つに特定されているが,特異的な危険因子を見分けるためには,全ての精神疾患について認知症の転帰を確認することが必要である。著者らは,精神障害が認知症に関連しているという仮説を立て,様々な精神疾患と認知症との関連について検証した。

方法

匿名化された行政管理データソースを利用した。1928~1967年にニュージーランドで生まれた21~90歳の1,711,386名を四つの年齢層に分けて分析した。

精神障害の診断はニュージーランド保健局の公立病院入院記録で確認し,九つの精神障害(物質使用障害,精神病性障害,気分障害,神経症,生理学的機能異常,パーソナリティ障害,発達障害,行動障害,特定不能の障害)に分類した。認知症の情報は,公立病院記録,死亡記録,抗認知症薬の処方箋から確認した。

相対リスク(RR)のPoisson回帰モデルにより,精神障害の診断及び身体疾患の診断とその後の認知症との関連を推定した。

結果

対象となった1,711,386名は,基準時点での年齢の範囲は21~60歳,男性866,301名(50.6%)であった。30年間で,64,857名(3.8%)が精神障害,34,029名(2.0%)が認知症と確認された。

精神障害と診断された人は認知症を発症するリスクが高かった[RR=3.51,95%信頼区間(CI):3.39-3.64]。認知症との関連は,身体疾患よりも精神障害の方が大きく(RR=1.19,95%CI:1.16-1.21),男性,女性,全ての年齢層で顕著であり,若い年齢層でより強かった。既存の身体疾患を考慮しても,精神障害は認知症発症リスクが高かった(RR=4.24,95%CI:4.07-4.42;ハザード比=6.49,95%CI:6.25-6.73)。認知症の中では,精神障害と診断された人の方が5.60(95%CI:5.31-5.90)年早く認知症を発症していた[認知症までの平均時間は,精神障害あり:8.56年(95%CI:8.29-8.84),精神障害なし:14.17年(95%CI:14.07-14.27)]。

精神障害で自傷行為を行った人は,認知症と診断されるリスクが高かった。RRは,神経症性障害2.93(95%CI:2.66-3.21)~精神病性障害6.20(95%CI:5.67-6.78)の範囲であった。

認知症のタイプ別では,アルツハイマー病(RR=2.76,95%CI:2.45-3.11)及び他の全ての認知症(RR=5.85,95%CI:5.58-6.13)と関連していた。アルツハイマー病以外の認知症との関連は大きく,これは精神障害を持つ人では不良な健康行動や慢性的な身体疾患に起因する認知症の発症リスクが高いことを反映したものかもしれない。

考察

ニュージーランド市民170万人の30年間の解析では,精神障害を持つ人々は,その後の認知症やより若年での認知症の発症のリスクが高かった。リスクの上昇は,身体疾患よりも精神障害において大きく,APOE4対立遺伝子を含む確立されたリスクと同等であった。関連は,様々な精神障害,早期発症及び後期発症認知症,アルツハイマー病及びその他の認知症,男性と女性,全ての年齢層に存在し,既存の身体疾患と社会経済的貧困を考慮した後も認められた。

人生早期の精神障害を改善することは,若者の精神医学的健康に資するだけでなく,高齢者の認知機能低下や神経変性疾患のリスクを減らす可能性がある。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(石﨑 潤子)

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