ためこみ症における白質構造の異常

J PSYCHIATR RES, 148, 1-8, 2022 Abnormal White Matter Structure in Hoarding Disorder. Mizobe, T., Ikari, K., Tomiyama, H., et al.

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背景

かねてよりためこみは強迫症の症状の下位分類の一つとして認識されてきた。DSM-5においてためこみ症は強迫症関連障害の一つとされ,一つの疾患として扱われるようになった。疾患の定義としては,その物の本質的な価値にかかわらず持ち物を廃棄することができないことが長期的に続き,結果として自身の生活環境が散乱することを指す。今までためこみ症の明確な神経生物学的なモデルは明らかにされてこなかったが,いくつかの神経画像研究でその特徴が示されている。脳機能の面では,機能的核磁気共鳴画像(fMRI)研究でゴー・ノーゴー課題及び安静状態において,ためこみ症における様々な脳皮質の異常活性化が示されている。また,構造面では構造MRIにおいていくつかの皮質の肥大が認められた。このような皮質に関する研究がある一方で,ためこみ症患者における白質線維の変化に関する報告はない。ためこみ症を伴う強迫症患者における白質異常を調べた研究は存在するも,その数は限られている。そのため,ためこみ症において白質線維の異常があるかどうかはまだ明らかになっていない。

拡散テンソル画像(DTI)は白質線維の微小構造を評価することが可能な技術である。異方性度(fractional anisotropy:FA)はDTIで最もよく使われる指標であり,白質線維の統合性を評価することが可能である。また,それを補助する指標として軸方向拡散係数(axial diffusivity:AD)と放射拡散係数(radial diffusivity:RD)が知られており,それぞれ軸索の損傷とミエリンの形成異常を反映する。Tract-based spatial statistics(TBSS)はこれらDTI指標を用いた全脳の評価を示す。

本研究はTBSSを用いて,ためこみ症における白質線維の異常について検討を行った。

方法

年齢,性別,利き手を調整した25名のためこみ症(HD群)と36名の健常者(HCs群)を組み入れた。ためこみ症の重症度の評価にはHoarding Rating Scale-Interview(HRS-I),Clutter Imaging Rating(CIR),Saving Inventory-Revised(SI-R)を用いた。

全ての被験者を対象に,MRIを用いてDTIの撮像を行った。それぞれのボクセルにおいてFA,AD,RD値を取得し,それらを用いたボクセルワイズ解析を行った。また,事後解析として領域ごとの平均DTI指標の群間差及び臨床指標との相関について検討を行った。

結果

HD群ではHCs群と比較して,左上縦束,左鉤状束,左下前頭後頭束,左前視床放線,左皮質脊髄路,左内包前脚,左外包,左前放射冠,左上放射冠,左後放射冠,脳梁体部,小鉗子におけるFA値の低下が認められ,両側上縦束,右下前頭後頭束,両側前放射冠,両側上放射冠,左後放射冠,右前視床放線,左後視床放線,右外包,右内包前脚,脳梁,小鉗子におけるRD値の上昇が認められた。FA値の上昇,RD値の低下は認められず,またAD値については上昇・低下共に認められなかった。

領域ごとに比較を行った事後解析では,クラスターごとの平均FA値には,左上縦束(p=0.0188),左外包(p<0.00001),左内包前脚(p=0.0024),左鉤状束(p=0.0240),小鉗子(p=0.0481)において,HD群でHCs群と比較して有意な低下が認められた。またRD値については右前視床放線(p=0.0253),右前放射冠(p=0.019),左上放射冠(p=0.0492),左外包(p=0.0120)で有意な上昇が認められた。また,症状とDTI指標の相関については,左内包前脚のFA値とSI-Rに負の相関(r=-0.4404,p=0.0276)が,右前視床放線のRD値とHRS-Iに正の相関(r=0.4507,p=0.0238)が,右前視床放線のRD値とSI-Rに正の相関(r=0.4312,p=0.0314)が認められた。

考察

本研究はためこみ症の症状とDTI指標の関連について検討を行った初めての研究である。本研究ではHD群において脳の幅広い白質線維でFA値の低下,RD値の上昇が認められた。またその中でも,前頭視床回路に属する部位については症状との有意な相関関係が認められた。これらはためこみ症において白質線維の微小構造の有意な異常があることを示唆している。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(和田 真孝)

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