自殺願望のある患者の心理的痛みに関連する臨床的特徴:1年間の追跡研究

J CLIN PSYCHIATRY, 83, 21m14065, 2022 Clinical Dimensions Associated With Psychological Pain in Suicidal Patients: One-Year Follow-Up Study. Alacreu-Crespo, A., Guillaume, S., Richard-Devantoy, S., et al.

背景

Shneidmanによる定義で「不安,絶望,恐怖,悲しみ,羞恥,罪悪感,失恋,孤独,喪失などの否定的な感情の内的経験」とされる心理的痛みは,様々な精神疾患で認められ,気分障害患者における自殺願望を理解する上で鍵となる臨床的な症状である。また抑うつ症状の有無にかかわらず,心理的痛みと自殺行動には強い関連があることを示した近年の研究もある。しかし,強い心理的痛みが何によって予測できるのかは,ほとんどわかっていない。そこで,心理的痛みと最も強く関連する臨床的特徴を明らかにすることを目的として,本研究を行った。

方法

DSM-IVの大うつ病エピソードに該当し,2010~2017年にフランスのモンペリエ市にある大学病院に入院した18~71歳(平均年齢42.07歳)の患者371名(うち女性は259名)を対象とした。このうち,178名を7日以内に自殺企図のある(SA-R)群,100名を自殺企図歴のある(SA-P)群,93名を自殺企図歴のない(AC)群3群に分けて分析した。

研究への組み入れ時に,現在の精神症状の病態,使用薬物,パーソナリティの特性,幼少期の心的外傷の評価を行った。観察開始時と1年後の追跡時に抑うつの症状と,その時点での心理的・身体的痛み,過去15日間の心理的・身体的痛みの最大値を評価した。痛みの評価には視覚アナログ尺度(Vsual Analog Scale:VAS)を用いた。

結果

AC群に比較し,SA-R群とSA-P群には,子を持つ患者が少なく,不安症もしくは心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者が多かった。

観察開始時,SA-R群では他の2群に比較し,心理的痛みの最大値が有意に高かった[SA-P群に対してオッズ比(OR)=1.18,95%信頼区間(CI):1.04-1.35,p=0.014;AC群に対してOR=1.32,95%CI:1.16-1.50,p<0.001]。

抑うつの重症度[ベックうつ病質問票(Beck Depression Inventory:BDI)で評価]で補正した結果,心理的痛みの強い患者は,弱い患者に比較し薬物乱用/薬物依存(p<0.024,OR=1.83,95%CI:1.08-3.09),幼少期の性的虐待経験(p<0.032,OR=1.18,95%CI:1.05-3.11),抗不安薬の使用(p<0.004,OR=2.14,95%CI:1.27-3.59)が多く,身体的痛みの最大値が高い(p<0.001,OR=1.15,95%CI:1.08-1.24)という特徴が認められた。多変量解析で心理的痛みの強さと関連があったのは,抑うつの重症度(p<0.001,OR=1.11,95%CI:1.08-1.16)と身体的痛みの最大値(p=0.008,OR=2.53,95%CI:1.28-5.02)であった。一方,心理的痛みの弱さに関連していたのは双極性障害(p=0.041,OR=0.54,95%CI:0.29-0.98)であった。

観察期間中の心理的痛みの悪化は,抑うつの重症度(β=0.46,p<0.001)と身体的痛みの最大値(β=0.42,p<0.003)と正の相関があった。つまり,身体的痛みと抑うつ症状の改善が遅いほど心理的痛みの改善も遅れることが示された。抑うつの症状の中では,罪悪感,自発性の欠如,食欲低下が,観察開始時と1年後のいずれにおいても,心理的痛みの最大値との関連が認められた(全てp<0.010)。

結論

過去15日間の心理的痛みの最大値が,7日以内の自殺企図と関連していた。心理的痛みに繋がるのは,身体的痛み,罪悪感,自発性の欠如,食欲低下であるため,これらの症状がある患者には,特別に注意を払う必要がある。双極性障害で心理的痛みが弱かったのは,薬物療法が関連している可能性もある。身体的痛みと心理的痛みには強い繋がりがあることも示されたことから,鎮痛作用を持つ向精神薬の使用が心理的痛みを和らげ,自殺を減らすことに繋がるかどうかを確かめる研究が必要と思われる。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(真鍋 淳)

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