世界の精神障害発症年齢:疫学研究192報の大規模メタ解析

MOL PSYCHIATRY, 27, 281-295, 2022 Age at Onset of Mental Disorders Worldwide: Large-Scale Meta-Analysis of 192 Epidemiological Studies. Solmi, M., Radua, J., Olivola, M., et al.

はじめに

良好な精神保健の促進,予防,早期介入は生涯のいずれの時期においても精神障害の予後を改善するが,精神障害発症時期の若者を対象とした場合にその効果は最大となる。しかし,精神障害発症のピーク年齢や範囲は十分解明されていない。本研究はこれらを明らかにし,介入及び予防のタイミングを最適化し,精神障害発症時に良好な精神保健の機会を提供できるようにすることを目的とした。

方法

PRISMA及びMOOSEに準拠した系統的レビューとメタ解析を実施した。少なくとも2名の著者が独立してPubMedとWeb of Scienceより,ICDとDSMのあらゆる精神障害の発症年齢を評価した出生コホート,横断研究,発症率研究の検索を行った。主要転帰は,何らかの精神障害と特定の精神障害の発症年齢が14歳,18歳,25歳以前の人の割合と,何らかの精神障害と各診断の発症年齢のピークとした。

結果

重複を排除した上で5,442報の論文を同定し,最終的に192報の研究,708,561人のデータが対象となった。

何らかの精神障害は,14歳,18歳,25歳以前に,それぞれ34.6%,48.4%,62.5%の人がすでに発症していた(表)。神経発達障害では61.5%,83.2%,95.8%,不安/恐怖関連症では38.1%,51.8%,73.3%,強迫症/関連症では24.6%,45.1%,64.0%,食行動症/摂食症では15.8%,48.1%,82.4%,ストレス関連障害では16.9%,27.6%,43.1%,物質使用/嗜癖行動症では2.9%,15.2%,48.8%,統合失調症スペクトラム/一次性精神病性障害では3.0%,12.3%,47.8%,パーソナリティ障害/関連特性では1.9%,9.6%,47.7%,気分障害では2.5%,11.5%,34.5%であった。

精神障害全体の発症年齢のピークは14.5歳,中央値は18歳であった。発症の最初のピーク年齢は神経発達障害(ピーク=5.5/中央値=12歳),不安/恐怖関連症(ピーク=5.5/中央値=17歳),強迫症/関連症(ピーク=14.5/中央値=18歳),食行動症/摂食症(ピーク=15.5/中央値=18歳),ストレス関連障害(ピーク=15.5/中央値=30歳),物質使用/嗜癖行動症(ピーク=19.5/中央値=25歳),統合失調症スペクトラム/一次性精神病性障害及びパーソナリティ障害/関連特性(ピーク=20.5/中央値=25歳),気分障害(ピーク=20.5/中央値=31歳)であった。

発症年齢は男女でほぼ同じであったが,男性の方が若い傾向が見られたのは物質使用や嗜癖行動による障害(中央値=4年早い),気分障害(中央値=2年早い),統合失調症スペクトラム及び一次性精神病性障害(中央値=1年早い)であった。

結論

本研究結果は,児童・青年期と成人の精神保健サービスを分離している現在の精神保健医療制度に疑問を投げかけ,地域社会の若者,精神障害のリスクがある人,顕在化している人に対する精神保健の促進及び予防・早期介入ケアの統合モデルを包括的に実施するための強い疫学的エビデンスを提供するものである。

表.メタ解析によって得られた、一般人口における精神障害の発症年齢の疫学的推定値(太字はICD-11分類)

256号(No.4)2022年10月14日公開

(野村 信行)

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