精神障害及び一般的な身体合併症と死亡率の関連

JAMA PSYCHIATRY, 79, 444-453, 2022 Mortality Associated With Mental Disorders and Comorbid General Medical Conditions. Momen, N. C., Plana-Ripoll, O., Agerbo, E., et al.

はじめに

精神障害患者の寿命は一般人口よりも短いことが知られており,この主因は併存する身体疾患であると考えられている。最近の研究では,身体合併症を持つ精神障害患者では,精神障害単独または身体疾患単独の患者よりも寿命が短いことが報告されているが,個別の精神障害,個別の身体合併症で網羅的に調査した研究は存在していない。

本研究の目的は,様々な精神障害と様々な身体疾患を併存する患者の死亡率を,①精神障害のみを持つ患者,②身体疾患のみを持つ患者,③どちらも持たない者で比較することである。

方法

1900~2015年にデンマークに生まれ,2000年1月1日以降にデンマークに住んでいる,またはそれ以降に生まれた国民の登録簿を用いて調査を行った。

精神障害の有無についてはデンマーク精神医学中央研究登録(Danish Psychiatric Central Research Register)を用い,ICD-10におけるF0~F9の10疾患群について調べた。身体疾患の有無についてはデンマーク国内処方箋登録(Danish National Prescription Register)等を用い,循環器疾患(高血圧,脂質異常症,虚血性心疾患,心房細動,心不全,末梢閉塞性動脈疾患,脳卒中),内分泌疾患(糖尿病,甲状腺疾患,痛風),呼吸器疾患及びアレルギー(慢性肺疾患,アレルギー),消化器疾患(胃潰瘍/慢性胃炎,慢性肝障害,炎症性腸疾患,腸管憩室症),泌尿器生殖器疾患(慢性腎障害,前立腺疾患),筋骨格系疾患(結合組織疾患,骨粗鬆症,慢性疼痛),血液疾患(HIV/AIDS,貧血),悪性腫瘍,神経疾患(視覚障害,聴覚障害,片頭痛,てんかん,パーキンソン病,多発性硬化症,ニューロパチー)の9疾患群について調べた。

Cox比例ハザードモデルを用い,精神障害と身体疾患を併存している患者と,①身体疾患のみの患者,②精神障害のみの患者,③どちらもない者,との死亡率比を求めた。また,損失生存年数(Life-Years Lost)を比較した。

結果

5,946,800名(男性2,961,397名,女性2,985,403名)が組み入れられた。追跡開始時の年齢の中央値は32歳[四分位範囲(IQR)=7.3~52.9歳],追跡終了時の年齢の中央値は48.9歳(IQR=42.5~68.8歳)であり,901,473名が死亡し,94,629名が国外へ移住した。

精神障害と身体疾患の両方を持つ患者とどちらもない患者の90比較(9の身体疾患群×10の精神障害群)全てにおいて,前者の死亡率が高く,平均死亡率比は5.90(中央値4.94,範囲2.05~18.55)であった。身体疾患のみの患者との比較では90比較全てにおいて死亡率が高く,平均死亡率比は2.40(中央値2.30,範囲1.14~6.11)であった。精神障害のみの患者との比較では,90の比較中85で死亡率が高く,平均死亡率比は2.07(中央値1.66,範囲0.93~7.01)であり,残りの5比較はいずれも神経疾患合併群で,このうち4比較では有意な差がなく,1比較[神経疾患と器質性精神障害(F0)]では精神障害のみの患者よりも,精神障害と身体合併症の両方を持つ患者で死亡率が低かった。

損失生存年数に関しては,死亡者が少なかった五つの比較を除いた85比較を行った。精神障害と身体疾患の両方を持つ患者と一般人口との比較では,平均損失生存年数は11.35年(中央値11.08,範囲5.27~23.53)であった。身体疾患のみの患者との比較では5.54年(中央値5.29,範囲0.23~11.74),精神障害のみの患者との比較では4.11年(中央値2.67,範囲0.12~16.13)であった。

結論

本研究では,精神障害と身体疾患の両方を持つ患者では一般人口のみならず,精神障害のみの患者,身体疾患のみの患者と比較しても生存期間が短いことが示された。単独の精神障害としては摂食障害,物質使用障害が,単独の身体疾患としては悪性腫瘍,血液疾患が死亡率上昇に与える影響が大きかった。精神障害の早期発見と良好な管理,身体疾患の予防と早期発見が精神障害を持つ患者の生命予後延伸のためには重要である。

256号(No.4)2022年10月14日公開

(石田 琢人)

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