健幸長寿を叶える糖尿病診療〜ミトコンドリア品質管理の視点から〜
2026年10月9日(金)
12:30~13:10
【演者】野村 政壽 先生(久留米大学医学部内科学講座 内分泌代謝内科部門 主任教授 )
ミトコンドリアは、糖や脂肪酸などの栄養素からATPを産生するエネルギー代謝の中枢である。さらに、栄養状態に応じて分裂と融合のバランスを変化させる「ミトコンドリアダイナミクス」により、エネルギー産生とマイトファジーを介した品質管理を調節している。一方、酸化的リン酸化に伴って活性酸素種(ROS)を産生するため、過栄養状態が持続すると、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、慢性炎症が惹起される。ミトコンドリアで産生されたATPは、細胞内ではエネルギー通貨として機能するが、細胞外へ分泌されるとdamage-associated molecular patterns(DAMPs)としてプリン受容体を活性化し、炎症や線維化を促進する。したがって、ミトコンドリアは代謝と炎症を結ぶ重要な制御基盤と言える。したがって、その機能不全は、膵β細胞機能障害やインスリン抵抗性を介して2型糖尿病の発症・進展に関与するだけでなく、内臓肥満や代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)を起点とするCKM症候群の病態形成にも深く関与する。
イメグリミンは、グルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す膵作用と、肝臓・骨格筋における糖代謝を改善する膵外作用(糖新生抑制・糖取り込み能改善)という2つの作用を併せ持つ経口糖尿病治療薬である。膵β細胞ではNAMPT発現を介してNAD⁺サルベージ経路を活性化し、肝臓ではATP産生を大きく損なうことなくROS産生を抑制するなど、ミトコンドリア機能を改善すると考えられている。単剤および他剤との併用で良好な血糖降下作用と安全性が示され、eGFR 10 mL/min/1.73 m²以上の腎機能障害患者にも使用可能であることから、幅広い患者層における第一選択薬または併用薬として期待される。さらに我々は、イメグリミンが細胞外ATP分泌を抑制して肝臓の炎症細胞浸潤を減少させ、組織学的線維化スコアを低下させる可能性を報告した。(Nomura S, et al. FEBS Lett. 2025.)
本講演では、ミトコンドリアダイナミクスを基盤とした代謝と炎症の連関を概説し、MASLD、CKM症候群を見据えた薬物療法について考察する。さらに、食事・運動・睡眠によるミトコンドリア品質管理を含め、糖尿病患者の健幸長寿を実現する包括的診療のあり方を提示したい。
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