日常診療の中にファブリー病が潜んでいるかもしれないという目を備えることが大切

福岡市では福岡大学病院（以下、当院）と九州大学病院の二つの大学病院と、その他複数の基幹病院が診療圏を分担しています。ファブリー病の認知度は以前に比べて向上してきましたが、診断・治療の詳細まで把握している医師はまだ少数です。

当院予防・抗加齢・再生医療センター/循環器内科でファブリー病が発見されるケースでは、心筋症などの心疾患の精査を目的に紹介された患者さんの中から見いだされることが多いです。また当院小児科におけるスクリーニングで発見された患者さんのご家族を、当科で診察することもあります。成人のファブリー病は特異的所見が少なく、一般的な心疾患や腎疾患と類似した所見を示すことが多いため、診断されていない患者さんが多く潜在していると推察されます。

ファブリー病はX連鎖性の遺伝形式をとる遺伝性疾患であり、ライソゾーム内に存在する加水分解酵素α-ガラクトシダーゼ（α-Gal）の欠損あるいは活性低下により、その基質であるグロボトリアオシルセラミド（Gb3）が全身の様々な組織・臓器に蓄積することによって発症します。小児期から四肢疼痛をはじめとする症状が現れる古典型と、成人以降に心疾患や腎疾患を生じる遅発型があります。ヘテロ接合体の女性では無症状のまま経過する場合もありますが、症状を伴う場合、軽症から重症まで様々です。

ファブリー病の心症状としては心筋症や心肥大、伝導障害、伝導遅延などがあります。心電図上のPQ間隔の短縮が認められる例や、年齢や心機能に比して強い左室肥大が認められる例、心不全の病態が初期であるにもかかわらず心筋トロポニン高値を示す例などがあります。これらは全ての症例に当てはまるわけではなく、多くの場合、一般的な心疾患と類似した所見を示します。その一方、心不全の急性増悪時に通常の治療が奏効しないなど、一般的な心疾患とは異なる転帰をたどることもあります。全身の臓器にGb3が蓄積されることが病態に密接に関連していることを実感させられる場面です。

ファブリー病を発見する上で重要なのが既往歴聴取です。幼少期に四肢疼痛や無発汗・低発汗などの症状がなかったか、あるいは、皮膚に赤い発疹（被角血管腫）がないかなどを確認します。また、家族歴聴取も重要であり、近縁者の中に透析例や若年での心臓突然死例、脳卒中発症例がいないか、特に男性にそのような方がいないかを、詳しく聴き取ることが発見につながります。

ファブリー病が疑われる場合は、α-Galの酵素活性測定を行います。男性の場合は活性低値を示せば確定的ですが、ヘテロ接合体の女性の場合は活性値が正常範囲内であることもあるため、最終的には遺伝子検査にて診断します。最近、ファブリー病のバイオマーカーとして注目されているのが、尿中におけるマルベリー小体です。当科で治療中の患者さんは大多数がマルベリー小体陽性であり、非侵襲的な検査指標としても有用ではないかと考えられます。

酵素活性測定や遺伝子検査を実施する際には、その目的を患者さんに説明し、同意を得ることが重要です。ファブリー病には原因治療としてα-Gal製剤による酵素補充療法がありますので、治療を開始する上でも必要な検査であることを説明します。

酵素補充療法は点滴静注にて行い、2週間に1回の通院が必要であるため、仕事をお持ちの患者さんなどは治療開始をためらわれる場合があります。当院循環器内科では仕事の都合や祝日などがあっても治療を受けていただけるよう、柔軟に対応できる体制を敷いています。酵素補充療法は継続することが大切ですので、定期的な検査で進行が抑制されていることを患者さんとともに確認するなど、治療のモチベーションを維持していただけるよう努めています。

成人以降に発症する遅発型のファブリー病は特徴的な所見に乏しいということを理解すると、日々診療している患者さんの中にファブリー病が潜んでいるかもしれないという目を備えることができるようになると思います。ファブリー病が疑われる患者さんがおられましたら、お気軽にご相談ください。

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