多嚢胞性卵巣症候群の不妊治療におけるメトホルミンの有用性

「多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発、多嚢胞性卵巣症候群の生殖補助医療における調節卵巣刺激」の効能又は効果、用法及び用量の追加に関する開発の経緯

「多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発、多嚢胞性卵巣症候群の生殖補助医療における調節卵巣刺激」の適応については、日本生殖医学会から適応追加の要望書が提出され、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」及び「薬事・食品衛生審議会」で検討、評価された結果、有効性や安全性が医学薬学上公知であると認められ、公知申請により2022年9月に効能又は効果、用法及び用量が追加承認されました。

* 公知申請: 医薬品(効能追加など)の承認申請において、当該医薬品の有効性や安全性が医学的に公知であるとして、臨床試験の全部または一部を新たに実施することなく承認申請を行うことができる制度

「多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発、多嚢胞性卵巣症候群の生殖補助医療における調節卵巣刺激」に関するメトホルミンの臨床成績

監修:東京大学大学院医学系研究科 産婦人科学講座 准教授 原田 美由紀先生

(1)多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発【海外データ】1)

1)Legro RS et al.:N Engl J Med 2007;356:551

一部承認用法及び用量と異なる成績が含まれていますが、評価資料のひとつとしてご紹介します。

試験方法開く

目 的:
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)患者の排卵誘発治療において、メトホルミン塩酸塩(以下、メトホルミン)、クロミフェンクエン酸塩(以下、クロミフェン)、またはメトホルミンとクロミフェンの併用の有効性および安全性を検討する。
対 象:
18~39歳のPCOS患者626例
方 法:
無作為化比較試験。被験者をクロミフェン/プラセボ、メトホルミン徐放錠/プラセボ、メトホルミン徐放錠/クロミフェンの併用投与の3群に無作為に割り付け(層別因子:研究施設、試験薬投与歴の有無)、それぞれ最大6ヵ月間投与を行った。メトホルミン徐放錠は、500mgを1日1回投与から開始し、1,000mgを1日2回投与まで増量した。クロミフェンは、50mg/日を月経周期3日目から5日間投与し、十分な排卵が認められた場合は次周期も50mg/日を、排卵が認められないまたは不十分な場合は次周期以降150mg/日まで増量可能とした。妊娠が確認された場合は投与を中止し、被験者を分娩まで追跡した。
主要評価項目:
生産率
副次評価項目:
妊娠喪失率、単胎出産率、排卵率
その他の評価項目:
妊娠率など
解析計画:
カテゴリー変数における3群間の差の検定には、χ2検定またはFisherの正確検定を用いた。連続変数の2群間の差の検定にはWilcoxonの順位和検定、3群以上の群間の差の検定にはKruskal-Wallis検定を用いた。事象発生までの時間の解析にはKaplan-Meier曲線を用いた。

排卵率

排卵率は、クロミフェン群が49.0%、メトホルミン群が29.0%、両剤の併用群が60.4%であり、併用群で最も高い排卵率が認められました。

※ 周期中に血清プロゲステロン値>5ng/mLが確認された場合

排卵率<副次評価項目>

参考情報:生産率への影響

生産率は、クロミフェン群が22.5%、メトホルミン群が7.2%、両剤の併用群が26.8%であり、メトホルミン群に比べてクロミフェン群および併用群で有意に高い生産率が認められました。

生産率<主要評価項目>

安全性

重篤な有害事象は、クロミフェン群で7例(妊娠12週以降の流産および異所性妊娠各2例、出血性黄体嚢胞、気管支炎、および頚管無力症各1例)、メトホルミン群で2例(くも膜下出血による死亡、過敏症各1例)、併用群で11例(妊娠12週以降の流産4例、異所性妊娠、重度の妊娠高血圧腎症、および先天異常各2例、背部痛および早産各1例)に認められました。

※ 11例のうち1例が2つの重篤な有害事象を発現

生化学的妊娠前に認められたその他の有害事象は、下表のとおりでした。
生化学的妊娠前に認められた主な有害事象(発現頻度30%以上)は、クロミフェン群で腹部痛/腹部不快感52.6%(110例)、頭痛44.0%(92例)、悪心39.2%(82例)、メトホルミン群で下痢64.9%(135例)、悪心61.5%(128例)、腹部痛/腹部不快感59.1%(123例)、頭痛42.3%(88例)、併用群で悪心66.0%(138例)、腹部痛/腹部不快感65.6%(137例)、下痢60.3%(126例)、頭痛41.6%(87例)、嘔吐34.4%(72例)でした。

安全性

6. 用法及び用量(抜粋)
〈多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発〉
他の排卵誘発薬との併用で、通常、メトホルミン塩酸塩として500mgの1日1回経口投与より開始する。患者の忍容性を確認しながら増量し、1日投与量として1,500mgを超えない範囲で、1日2~3回に分割して経口投与する。なお、本剤は排卵までに中止する。

(2)多嚢胞性卵巣症候群の生殖補助医療における調節卵巣刺激【海外データ】2)

2)Palomba S et al.:Fertil Steril 2011;96:1384

一部承認用法及び用量と異なる成績が含まれていますが、評価資料のひとつとしてご紹介します。

試験方法開く

目 的:
体外受精(IVF)のためにゴナドトロピン治療を受けた、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)ハイリスクの多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)患者において、メトホルミン投与がOHSSの発症を低減するかどうかを検討する。
対 象:
OHSSのリスクが高く、過去にIVF周期を中止したことがある、または過去のIVF周期において中等度または重度のOHSSを発症したことがある35歳以下のPCOS患者120例
方 法:
無作為化二重盲検比較試験。被験者をメトホルミン群(n=60)またはプラセボ群(n=60)に無作為に割り付け、メトホルミン1回500mgまたはプラセボの1日3回投与をGnRHアゴニスト投与と同日に開始し、妊娠検査陽性または月経出血がみられるまで継続した。GnRHアゴニストロングプロトコルによる下垂体脱感作を確認した後、ゴナドトロピン(過去に用いた薬剤と同じ薬剤)を150単位/日で投与開始し、5日間投与後にステップダウンプロトコルに従い投与した。
主要評価項目:
OHSSの発現割合
その他の評価項目:
採卵数、臨床妊娠率、継続妊娠率、生産率など
解析計画:
カテゴリー変数は、Pearsonのχ2検定またはFisherの正確検定を用いて解析した。連続変数データは正規分布ではなかったため、中央値(四分位範囲、最小値-最大値)で表し、群間差はMann-Whitney U検定を用いて解析した。OHSSの発現割合とキャンセル周期に関する相対リスクとその95%信頼区間を算出した。主要評価項目について治療必要数を算出した。統計学的有意水準はp<0.05とした。

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発現割合

OHSSの発現割合は、メトホルミン群で8.3%、プラセボ群で30.0%でした。
メトホルミン投与によるOHSS発症の相対リスクは0.28(95%信頼区間 0.11-0.67)、中等度/重度OHSS発症の相対リスクは0.2(95%信頼区間 0.05-0.88)でした。

OHSSの発現割合<主要評価項目>

安全性

メトホルミン群、プラセボ群において、投与中止に至った症例に有害事象は認められませんでした。
消化器症状の有害事象(悪心、嘔吐、胃腸障害)が、メトホルミン群で25.0%(15/60例)、プラセボ群で5.0%(3/60例)に認められました。

6. 用法及び用量(抜粋)
〈多嚢胞性卵巣症候群の生殖補助医療における調節卵巣刺激〉
他の卵巣刺激薬との併用で、通常、メトホルミン塩酸塩として500mgの1日1回経口投与より開始する。患者の忍容性を確認しながら増量し、1日投与量として1,500mgを超えない範囲で、1日2~3回に分割して経口投与する。なお、本剤は採卵までに中止する。

8. 重要な基本的注意(抜粋)
〈多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発、多嚢胞性卵巣症候群の生殖補助医療における調節卵巣刺激〉
8.7 患者に対しては、あらかじめ以下の点を説明すること。
・本剤との関連は明確ではないが、本剤を用いた不妊治療において、卵巣過剰刺激症候群があらわれることがあるので、自覚症状(下腹部痛、下腹部緊迫感、悪心、腰痛等)や急激な体重増加が認められた場合には直ちに医師等に相談すること。
・多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発に本剤を用いた場合、卵巣過剰刺激の結果として多胎妊娠となる可能性があること。

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