エキスパートが検討 双極性障害うつ病エピソードの治療とラツーダの使い方 第2回


参加医師の皆様

【CQ1】双極性障害のどのような患者さんにラツーダを使うのがよいか? ラツーダの好適症例は?

加藤先生

 一般的に、双極性障害におけるうつ症状は難治性の場合が多く、治療の選択肢が限られています。そういう中で、ラツーダは双極性障害におけるうつ症状で困っているすべての患者さんの選択肢になりうるのではないかと考えています。加えて、他剤を使用していて、効果はあったけれども副作用で困っている患者さんなどもラツーダ投与の対象になるのではないでしょうか。

山田先生

 基本的には、ラツーダが好ましくないというような双極性障害におけるうつ症状の症例はないのではないかと考えています。忍容性に問題がなければ、基本的にはどのような患者さんであっても選択肢になりうると思います。

寺尾先生

 私の使用経験からは、例えば「よい意味でぼーっとできない」、「肩の緊張がとれない」患者さんや、「崖っぷちから気分が落ちてしまう」、「落ち込みが切迫する」ような、特に「不安や緊張が強い患者さん」に適した選択肢になるのではないかとの印象があります。このようにラツーダには「双極性障害におけるうつ症状の不安や恐怖から患者さんを疎隔してくれる、保護してくれる」という印象があるため、特に不安、緊張が強い患者さんに対して、ラツーダをまず試みる価値があると考えています。

【CQ2】食事が問題となるケースは?

加藤先生

 先ほど、ラツーダは、双極性障害におけるうつ症状で困っているすべての患者さんが投与の対象となる可能性があると申し上げましたが、食後投与となりますので、食事がとれない患者さんは、ラツーダの治療は難しいかもしれません。先生方は、食後投与で何か工夫されていることはありますでしょうか。

上田先生

 処方するときに、「このお薬は食後に服用しないと効かないんですよ」ということを伝えるとともに、ラツーダを服用する前に食事でとる必要のある目安となる350キロカロリー1) を具体的な食品で伝えています。コンビニであれば、例えばミニ冷やし中華やかけうどん、おにぎりなら2個ぐらいになります。このように、患者さんの記憶に残りやすいように、具体的に伝えることを心掛けています。

高江洲先生

 食後投与の問題は、臨床的に問題になることが少なくありません。その要因として、まず、処方する医師が十分に理解していないことが挙げられます。実際、就寝前にラツーダを処方されていたケースをみたことがあります。ラツーダは食後投与ということを、医師側がまず理解して、処方を徹底する必要があると考えています。
 次に、患者さんに服薬説明をきちんとできていないことがあるのではないかと考えています。上田先生がおっしゃったとおり、食後投与を説明することが非常に重要で、具体的にどれぐらい食べたらよいのかというのをお伝えする必要があります。
 実は、先日、臨床上困ったケースに遭遇しました。夕食後投与で効果が得られていた患者さんが、夕食後から寝る前までの間が眠くてしょうがないということで、ご自身で服用方法を変えていたのです。私から、「ある程度お腹が満たされている状態でないと効果がない」という説明をしていたので、患者さんが工夫をして、クッキーを2~3枚食べて、就寝前にラツーダを服用していました。しかし、それでは効果が出なかったとのことでした。このケースを経験して、おにぎり2個や麺類一皿程度のカロリーは必要であることを、患者さんにしっかり情報提供することが重要だと再認識しました。

【CQ3】双極Ⅱ型障害の患者さんにラツーダは効くのか?

山田先生

 ラツーダは、基本的に双極性障害におけるうつ症状で困られているすべての患者さんが投与の対象となる可能性があるというお話でしたが、ここからのCQ(Clinical Question)では、臨床的に重要となる患者背景ごとに少し詳しく検討していきたいと思います。
 まず、「双極Ⅱ型障害の患者さんにラツーダは効くのか?」ということですが、加藤先生、ラツーダの臨床試験では、双極Ⅱ型障害の患者さんは対象に含まれていませんよね?

加藤先生

 ELEVATE試験では、双極Ⅱ型障害は含まれていません(図1)が、除外した理由は、Ⅱ型障害に効果がないだろうということではありません。Ⅰ型障害はしっかりした診断が可能である一方、Ⅱ型障害の診断は曖昧な現状があり、臨床試験の対象となるべき患者さんでない方も含まれ適切な薬効評価ができないリスクがあったためです。そのため、臨床試験ではあえて双極Ⅰ型障害に絞りました。
 日本うつ病学会のガイドラインは、双極性障害におけるうつ症状治療に関して、Ⅰ型とⅡ型を特にわけていないように思いますが、山田先生いかがでしょうか。

山田先生

 これはラツーダ以外のお薬にも当てはまることですが、実は多くの臨床試験ではⅠ型障害の患者さんを対象としています。リチウムなどの古い薬に関するデータについて言えば、当時はⅠ型障害とⅡ型障害の概念もなかったという事情もあり、Ⅱ型障害だけでエビデンスレベルの高い報告を集めることは難しく、双極性障害をひとつにまとめています。ほとんどはⅠ型障害のデータではありますが、Ⅱ型障害もそれに準ずるというような形で日本の治療ガイドラインを作成しました。海外のガイドラインも多くは同様に作成しています。
 高江洲先生は、Ⅰ型障害の患者さんとⅡ型障害の患者さんで、ラツーダの効果や副作用面について、何か違いを感じられましたか。

高江洲先生

 私自身はラツーダの使用経験例が三十数例で、Ⅰ型障害とⅡ型障害はおよそ半々です。個人的には、どちらにも同程度の効果があるという印象です。なお、Ⅰ型障害の患者さんは、ほとんどの症例で、すでにリチウムを中心とした気分安定薬を使用していますので、併用した効果も含めてということになります。

上田先生

 私のクリニックでは、Ⅱ型障害の患者さんが多いです。Ⅱ型障害は、Ⅰ型障害に比べるとうつ症状が長期間続いて、しかも重症度も高い場合が多いのですが、そういった方に対してもラツーダは効果がある印象です。

【CQ4】ラピッドサイクラー(急速交代型)には?

加藤先生

 急速交代型は、年に4回以上のエピソードを繰り返す双極性障害で、一般的に難治で予後が不良とされています。ELEVATE試験のデータをみますと、MADRS合計スコアの変化が、急速交代型のプラセボ群で約-13、非急速交代型のプラセボ群で約-10であり、急速交代型のプラセボ群がより大きく改善しており、薬効評価の難しさを物語っていると思われます。これは、急速交代型ということで、1~2ヵ月でサイクルしている方が多く、6週後には自然に治ってしまっているため、実薬との差が出にくいということだと考えられます。ところが、ELEVATE長期試験の結果では、急速交代型の28週時点(LOCF)におけるMADRS合計スコアの平均値は、寛解の基準のひとつである12以下であり、急速交代型でもラツーダの投与で改善が認められる患者さんがいることが示唆されました。やはり急速交代型というのは、長期に経過をみていかないと有効性は判断できないので、長期試験の結果が参考になると考えます。なお、安全性プロファイルに関しては、審査報告書には、「病型による大きな違いはなく、躁転リスクも病型に関わらず低く、本剤を急速交代型患者に投与するにあたって安全上の大きな問題もない」と記載されています2)

山田先生

 実臨床では、双極性障害におけるうつ症状治療に抗うつ薬が用いられているケースがあります。しかし、急速交代型には、抗うつ薬の投与は気分安定薬との併用であっても双極性障害の経過を悪化させるという報告もあり、日本のガイドラインでは使用は推奨されていません。この点も踏まえて、武島先生はラピッドサイクラーへのラツーダの使用に関して何かご意見はございますでしょうか。

武島先生

 ラピッドサイクラーの治療においては、まず抗うつ薬の使用を中止して、気分安定薬をしっかり入れることが重要と考えます。その上でラツーダがどのような有効性を示すか、ということになると思います。私自身は、少なくともラツーダを併用して躁を誘発したり、気分を不安定化したりするということはないと考えていますので、ラツーダを併用して悪いことはないのではないでしょうか。特に、サイクリックな性質の患者さんには、ラツーダと気分安定薬の併用が適した選択肢になると考えています。

【CQ5】混合状態には?

山田先生

 本日ディスカッションする「混合状態」の言葉の定義は、軽躁病エピソードの基準に満たない不十分な症状の軽躁状態を伴う抑うつエピソードとします。つまり、DSM-Vから削除された抑うつエピソードの基準と躁病又は軽躁病のエピソードの基準を同時に満たす「混合エピソード」ではなく、双極性障害うつで「混合性の特徴を伴う」ものです。

武島先生

 個人的にラツーダは、混合性の特徴を持つうつにも効いている印象はありますし、焦燥が強い方、注意散漫が強い方、ぴりぴりして易怒的な方などにも奏効する印象があります。一方、抗うつ薬を混合性の症例に使うと、アクチベーションを起こしてしまったりしますので、注意が必要です。

【CQ6】若年、妊産婦、高齢者には?

加藤先生

 ELEVATE試験では18歳以上の患者さんが組み入れられています。ラツーダの添付文書には、特に成人用量に規定はありませんので、通常の成人用量は、15歳からの投与が可能と判断されます。
 女性については、日本人を含む短期及び長期試験(双極性障害)における血中プロラクチン値増加関連の有害事象の発現状況をみると、血中プロラクチン増加、リビドー減退、不規則月経、乳汁漏出症、無月経はいずれも1%未満でした2)。
 妊娠・出産については、添付文書上では禁忌ではありませんが、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」とされています。妊娠後期に抗精神病薬が投与されている場合、新生児に哺乳障害、傾眠、呼吸障害、振戦、筋緊張低下、易刺激性等の離脱症状や錐体外路症状があらわれたとの報告があります。授乳婦に対しては「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること、動物実験(ラット)で乳汁中への移行が認められている」とありますので、リスクとベネフィットを勘案し、ラツーダの投与又は投与継続の可否をご検討いただければと思います。
 高齢者については、一般的に生理機能が低下していますので、腎機能、肝機能の低下に注意しながら投与する必要があります。特にラツーダの場合、中等度以上の腎機能・肝機能障害患者では血中濃度の上昇が認められており、添付文書上で適切な用量が定められていますので、用量を確認の上でご処方ください。

高江洲先生

 妊産婦、高齢者のいずれも慎重な検討が必要だというところは、ほかの薬剤と同じだと考えています。ただ、双極性障害におけるうつ症状に用いる薬剤は、気分安定薬などの妊産婦への投与に懸念がある薬剤もあるので、その中ではラツーダは注意する必要はあるものの、周産期に比較的使いやすい薬剤かもしれません。

上田先生

 私は妊娠中の患者さんに投与した経験はありませんが、産後の患者さんに投与した経験があります。その際は、患者さんと話し合い、授乳をやめてもらいラツーダを投与しました。
 若年者については、高江洲先生もおっしゃっていたように、妊娠の可能性のある双極性障害の若い女性にも、気分安定薬よりは安全性の観点から処方しやすいと考えています。

Reference

1) Preskorn S, et al. Hum Psychopharmacol. 2013; 28(5): 495-505.
2) ラツーダ20mg錠、同錠40mg、同錠60mg、同錠80mg 審査報告書, p95

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