エキスパートが検討 双極性障害うつ病エピソードの治療とラツーダの使い方 第3回


参加医師の皆様

【CQ7】ラツーダは単剤治療か、気分安定薬と併用すべきか?

加藤先生

 一般論で考えると、治療薬の数は少ないほうがよく、単剤での治療が推奨されている疾患が多いですが、双極性障害治療では単純に急性期のエピソードを治療すればよいというわけではなく、うつ状態、躁状態のときから、維持期を見据えた治療を行わなければなりません。特に、うつから躁、躁からうつへの移行防止という、反対の極にある症状の両方を抑えなければならないという非常に困難なミッションがあります。また、混合状態もあり、状況が複雑になっています。さらに、双極性障害におけるうつ症状は、難治性で、気分安定薬を服用していてもうつ症状を呈してしまう場合が多いため、ガイドラインでは、非定型抗精神病薬と気分安定薬の併用も推奨されています1)
 山田先生、日本うつ病学会のガイドラインにおける抑うつエピソードの治療では、ラツーダの単剤治療を「推奨される治療」として、また、ラツーダとリチウム等との併用を、「その他の推奨されうる治療」として取り上げられていましたが、その背景をご教示いただけますか。

山田先生

 日本うつ病学会のガイドラインでこのように記載されているというのは、ひとえにラツーダには質の高いエビデンスがあるということです。ラツーダは単剤であっても、気分安定薬との併用であっても、双極性障害におけるうつ症状に対して、無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験のような質の高いエビデンスがあります。また、双極性障害は慢性に移行する疾患であるため、再発の予防が非常に重要になってきます。現状、本邦のガイドラインでは、予防治療、いわゆる維持療法については、リチウムが「最も推奨される治療」として挙げられています。しかし、リチウムのような気分安定薬を使用していても、うつ症状の再発が起こるケースはあります。

高江洲先生

 単剤か併用かという問題については、現在、日本うつ病学会の双極性障害治療ガイドラインの改訂メンバーでも議論しているところです。結論から言うと、一般化はできないだろうということになると思います。
 その上で、ELEVATE試験(ラツーダ単剤)(図1-3)2)とPREVAIL#1試験(ラツーダ+気分安定薬併用)(図4-7)3)のEffect sizeをみてみると、直接比較はできないものの、PREVAIL#1試験でその効果量は大きく、忍容性の違いもないので、併用は考慮されるべきだろうと考えます。
 実臨床に関して言うと、先ほど山田先生がおっしゃったように、ケース・バイ・ケースで考える必要があると思います。併用といっても、先にリチウムを使っていてラツーダを併用する場合もあれば、先にラツーダを使っていてリチウムを併用する場合もあります。たとえば、先にラツーダを使って十分に効果が得られている患者さんであれば、ラツーダ単剤を継続すればよいと思います。一方、ラツーダを使っていても、周期性に再発を繰り返すような患者さんは、リチウムなどの気分安定薬を併用したほうがよいだろうと考えます。また、リチウムなどの気分安定薬単剤で効果不十分の患者さんには、積極的にラツーダの併用を検討していくのがよいと考えています。

武島先生

 私は、急性期を乗り切った後のことを考えると、ラツーダ単剤よりも気分安定薬との併用がよいのではないかと考えています。実際、ラツーダ単剤で維持期に有効性を示したエビデンスは、今のところ十分ではありません。これはどの薬に関しても言えることですが、寛解に入っても、しばらくすると再発してしまうことがあります。できるだけ再発は抑えたいので、有害事象に注意しながら、異なる作用機序の薬剤を組み合わせて使うことは、ひとつの方法だと考えています。
 併存疾患、不安性苦痛、抑うつ混合状態等については、実は気分安定薬のエビデンスははっきりしていません。したがって、そのような患者さんにおいては、ラツーダの効果を期待できるのではないかと考えています。

上田先生

 基本的に急性期のうつ症状に関しては、ラツーダ単剤で有効性が期待できると思いますが、武島先生がおっしゃったように、急性期を乗り切った後のことを考えると、気分安定薬の併用が必要となるでしょう。
 ラツーダは、双極性障害におけるうつ症状に対するさまざまな臨床試験が行われており、単剤、併用のいずれもエビデンスがあることがメリットのひとつだと感じています。

寺尾先生

 私は、気分安定薬で波が抑えられない、特にラピッドサイクラーや混合状態のような難しい患者さんに対して、ラツーダの併用は有効性が期待できるのではないかという印象を持っています。

加藤先生

 先生方のお話をお聞きして、ラツーダは、単剤でも気分安定薬との併用でも有効性が証明されているので、併用か単剤かというのは、急性期を乗り切った後のことや、ラツーダ処方開始時の処方状況などの観点から選択するのがよいと感じました。

【CQ8】他剤からのスイッチングはどのようにすればよいか?

加藤先生

 高江洲先生は、他剤からラツーダへ切り替える際にどうされていますか。

高江洲先生

 私はスイッチングで困った経験はあまりなく、前薬をすぱっと切ってからラツーダに切り替えています。特に、前薬の用量が少ない場合は苦労しておらず、スムーズに切り替えられています。ただし、前薬にクエチアピン徐放錠300mgを服用していた方をラツーダに急に切り替えた際に、不眠になってしまったので、前薬を高用量使用している場合は、上乗せしてから漸減という方法も検討する必要があると思います。

上田先生

 高江洲先生がおっしゃったように、前薬がクエチアピン徐放錠の場合には、切り替え時に不眠になってしまうことがあるので、上乗せ漸減が好ましいのではないかと考えています。オランザピンからの切り替えは、オランザピンには抗コリン作用があるため、上乗せ後、オランザピンをかなりゆっくり減らしていくことが必要と考えています。

加藤先生

 実臨床では、どうしても前薬からすぱっと切り替えるわけにいかない場合がありますので、上乗せして漸減することになりますが、上乗せすると、ラツーダのよい点が引き出せない場合があるので、そこで効果がなかったと誤解されないようにはしていただきたいと思います。

【CQ9】ラツーダの増量等投与量の調節や効果判定は、どのようにすべきか?

加藤先生

 ELEVATE試験では、MADRS合計スコアのベースラインからの変化量は、ラツーダ20-60mg群では投与開始2週目よりプラセボと比べ有意な改善が認められましたが、効果の最終的な判断は6週間で行いました。そのため、効果判定には最低6週間はみていただく必要があると考えています。寺尾先生は、どれぐらいのスパンで効果を判定されていらっしゃいますか。

寺尾先生

 個人的には、しっかりとした抗うつ効果が出る前に、不安・緊張が取れてくる人が多いような印象です。早い人は数日で、多くは1~2週間で有効性が出てくるようです。そういった意味では、6週間よりも前に効果判定をできるのではないかと思います。しかし、早期に効果が出なくても6週間はしっかり使い続けることで、最終的に有効性が期待できる方もいらっしゃると思いますので、様子をみながら維持していくということに尽きるかなと思います。

武島先生

 20mgで開始して、もちろん6週間経過をみるのがよいのですが、仕事をしている方などは、休みを取れないことなどもあり、6週間は待てないことがあります。そういう方の場合は、2週や4週で効果を判定する必要もあるのではないかと考えています。ELEVATE試験で示されているように、ラツーダは2週で効果が出る患者さんがいますし、私の実臨床の印象も同様です。20mgを2~4週投与して効果が不十分なときは、忍容性に問題がなければ40mgに増量します。20mgでまったく効かない場合は、その時点でラツーダの効果は期待できないと判定することもあります。

上田先生

 私もまずは20mgで開始します。武島先生がおっしゃったように、20mgで効果がある方はその後も効果がある印象です。一方、60mgまで増量してやっと効果が出るという方もいるので、もしかするとearly onsetとlate onsetのタイプがあるのかなと考えています。したがって、早期にはあまり効いていない方でも、6週間程度は増量しながら経過をみていく必要はあるのではないかと考えています。

【CQ10】ラツーダの長期的な(再発予防)効果について、どのように考えるか? 急性期で効果があった場合、いつまでラツーダを投与するのか? 気分安定薬との併用は長期的にも有用なのか?

山田先生

 双極性障害治療は、急性期のエピソードの治療に留まらず、気分の波を抑え、再発を抑制することが重要となります。したがって、急性期から維持期の治療を見据えた治療が必要となりますので、このセッションは重要なパートだと思います。

加藤先生

 ラツーダの添付文書には、「うつ症状が改善した場合には、本剤の投与継続の要否について検討し、本剤を漫然と投与しないよう注意すること」、と記載されていますので、ほかの薬剤と同様に、ラツーダも安全性などを確認しないで漫然と使用を継続することは避けることが重要です。ELEVATE長期試験では1年間ラツーダを継続投与したことによるうつ状態の悪化や躁転リスクの上昇などのデメリットは認められませんでした。したがって、半年から1年までは、このようなエビデンスを参考にして、治療の継続を検討する余地があるのではないかと考えています。

寺尾先生

 ケース・バイ・ケースの話となりますが、現実的には、これまで再発を何度も繰り返している患者さんは、気分安定薬とラツーダを併用し、効果があればしばらくは継続します。しかし、今まで再発を起こしていないような患者さんであれば、エビデンスの強さという観点からは、ラツーダを減らして、気分安定薬だけに絞っていくというのが、皆さん一致した考えなのではないかと思います。先ほど加藤先生がおっしゃった半年や1年といったデータを参考にしながら、個々の患者さんと相談しながら治療方針を決めていく必要があると考えます。

高江洲先生

 私も、ラツーダを単剤で使っている場合は、問題がなければそのまま継続していきます。難しいのが、リチウムなどの気分安定薬に、後からラツーダを上乗せしたときに、それをいつまで続けるのかということです。ラツーダの併用で効果が安定していて、忍容性に問題がなく、かつ患者さんの希望があれば、無理にラツーダを減らさず、そのまま併用をある程度続けていくというのもひとつの方法なのかなと考えています。

【CQ11】副作用(アカシジアや嘔気など)に対する対策は?

山田先生

 先生方は、実臨床でどのような対策をされていますか。

上田先生

 アカシジアは、40mgぐらいから出てくることがありますので、その場合は20mgに減量して対処しています。吐き気は、若い女性に多いような印象があります。現時点では消化管運動亢進薬で対処していますが、もしかしたら、ドパミン遮断作用のある制吐薬のほうが、効果があるのかもしれないとも感じています。

武島先生

 ELEVATE試験では、アカシジアの発現頻度はラツーダ20-60mg 群で13.0%でした。重症度は高くないにせよ、私の投与経験ではもう少し多い印象です。その理由はいくつか考えられますが、ひとつは、双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害で発現率が異なる可能性があるのかもしれません。また、臨床試験に組み込まれた方は、ウォッシュアウト期間はあるものの、前治療のある方がほとんどだと推測します。私は、前治療がない方や、若年の方を比較的多く診療しています。若年者はアカシジアが出やすいと一般的に言われているため、そういったことが絡んでいる可能性もあるのかもしれません。
 対策としては、前もって患者さんにアカシジアについて十分に説明をしておくことが重要だと思います。重度のアカシジアを生じる患者さんは少ないので、前もって説明しておけば、中断することを少なくして、次回診察時に対応できます。具体的には、40mg以上を使っている場合は減量し、それでも改善しなければ、ベンゾジアゼピンやβ遮断薬を併用します。もちろん、中止せざるを得なくなる場合もありますが、「やはりラツーダが、うつに効いていたので元に戻してほしい」とおっしゃった患者さんを何例か経験しています。そういう場合は、しっかり予防薬を使いながら再トライしています。

寺尾先生

 私もアカシジアや傾眠を経験しています。いずれも20mgよりも40mg、40mgよりも60mgのほうが起きやすいので、発現がみられた場合は、まずは減量しています。

【CQ12】ラツーダを服用していて躁気味になった場合の対処法は?

高江洲先生

 もしかしたら、先生方の中に「ラツーダは即効性があるということは、抗うつ薬のように躁転させやすいということか」という印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ELEVATE試験の結果をみても、躁症状を悪化させるということはなく、どちらかというと抑制的に働くことがわかっています。一方、躁病相の予防効果に関してはエビデンスはありません。したがって、私は、ラツーダを使っていて躁症状が出てきたときは、リチウムを使っていなければリチウムを併用し、リチウムをすでに使っていたら用量を上げて血中濃度を上げるか、もしくはラツーダをアリピプラゾールにスイッチします。いずれにせよ、躁病相が出てきた時点で早めに対処することが重要だと考えています。

武島先生

 私は今のところラツーダを使用していて躁転や軽躁を経験したことはありません。臨床試験でもYMRSはベースラインより点数が減少する傾向にあるので(図8)、考えにくい現象ではあるだろうと思います。もしラツーダで躁転が起きてしまったとしたら、抗躁作用がはっきりしているような非定型抗精神病薬を上乗せするか、切り替えると思います。

【CQ13】治療継続のための工夫(患者さんへの説明方法など)は?

上田先生

 双極性障害患者さんには常々、「あなたのうつには抗うつ薬はよくないんですよ」と説明しています。その上で、「ラツーダは双極性障害のうつに効く薬ですよ」と説明しています。実際に患者さんがお薬を服用して、その効果を実感できた場合には、患者さん自ら継続を希望することが多いです。

寺尾先生

 患者さんにお薬の効果と副作用を説明することがまずは重要です。効果については、「気持ちが楽になる」という説明は必ずするようにしています。増量に関しては、患者さんと相談しながら決めています。

武島先生

 患者さんによっては効果の発現の仕方や時期を気にする方もいるので、「このお薬は1~2週間すると、自分でよくなったとわかるので、それを指標にしてください」と伝えています。副作用については、なるべく細かく説明するようにしています。特に、アカシジアと吐き気については重点的にお話しします。「もし症状が出た場合でも、大概は対処できるので、次回受診された際にお話ししてください」と伝えています。また、「毎日服用しないと効果は出てこないので、副作用がひどいようでしたら、自己判断で中断せずに連絡してください」とも説明しています。このように丁寧に説明しておくと、副作用でのドロップアウトはかなり減らせるのではないかと思います。

ラツーダへの期待

山田先生

 ラツーダは、まだ日本で発売されてから日が浅いので、我々もまだわからないことも多く、試行錯誤しながら使っているところがあるかと思います。また、アカシジアの問題や悪心にどう対応するのかというのも、まだ答えが出ていません。しかし、日本での歴史が新しいということは、これから日本発の新しいエビデンス、あるいは治療経験などがどんどん出てくるということだと思います。今後のエビデンスの集積とともに、さらなるラツーダの有効性が明らかになっていくことを大いに期待しています。

寺尾先生

 ラツーダの登場は、患者さんの福音になると思います。また、私ども精神科医にとっても、双極性障害におけるうつ状態治療の頼れる一手を手に入れたと感じています。ラツーダの今後に大いに期待しています。

高江洲先生

 ラツーダの登場によって、双極性障害におけるうつ症状治療が変わっていくのではないかと考えています。本日ディスカッションしたのは、主に症候学的に抑うつ症状を改善させるか、もしくはその改善した寛解を維持できるか、ということでしたが、私たちが患者さんとともに目指す治療のゴールとは、その先にある社会機能やQOLを高め、リカバリーを達成することだと思います。ラツーダは、このような治療ゴールを達成する一助になる薬剤ではないかと期待しています。

武島先生

 海外のガイドラインで、次々とラツーダがファーストチョイスに位置づけられていく中で、日本で使えない状況というのは非常に悔しく、発売を待ち望んでいました。実際に発売となり、効果を実感しているところです。ラツーダの登場で、従来、禁忌や副作用の問題から治療選択肢が限られていた双極性障害におけるうつ症状治療の選択肢が広がったことも、大きな意味があることだと思います。

上田先生

 双極性障害におけるうつ症状治療は、ニュートラルな状態を維持することですが、ラツーダはニュートラルの程度が患者さんにとって非常に適正に感じる印象があります。国内外のガイドラインに示されているように、ラツーダは、これからの双極性障害におけるうつ症状治療の第一選択に位置づけられる薬剤だと思っています。

加藤先生

 これまでの双極性障害におけるうつ症状治療は、効果がはっきりしないとか、効果はあっても体重増加や傾眠が出てしまうなどのさまざまな問題があり、本当に難渋していました。このたび、ラツーダが登場したことにより、双極性障害におけるうつ症状治療は、新しい時代を迎えたのだということを、日々実感しているところです。

Reference

1) 日本うつ病学会気分障害の治療ガイドライン作成委員会:日本うつ病学会治療ガイドラインⅠ.双極性障害 2020, 2020年6月16日第4回改訂,p11-13.
2) 社内資料:双極Ⅰ型障害の大うつ病エピソードを有する患者を対象とした無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験(ELEVATE試験)【承認時評価資料】
3) 社内資料:双極Ⅰ型障害の大うつ病エピソードを有する患者を対象としたリチウム又はdivalproex併用下における無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験(PREVAIL#1試験)【承認時評価資料】

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