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いま話題の「メタバース」、その7つの定義と勃興するプラットフォームたち
いま話題の「メタバース」、その7つの定義と勃興するプラットフォームたち

いま、「メタバース」という単語が注目を集めています。メタバースとは、インターネット空間上に構築された、ユーザー同士がコミュニケーションできる仮想3次元空間であり、そこで展開されるサービスのことを指します。
スティーブン・スピルバーグが監督したSF映画『レディ・プレイヤー1』では、環境汚染や気候変動、政治の機能不全により荒廃した2045年の世界を舞台に、地球上の人類の多くが「オアシス」というメタバース内で生活を営む世界が描かれます。このSF映画のような仮想空間が、いま現実のものになろうとしています。
メタバースは仮想世界の中で人と人とのつながりを生み出すものであり、それゆえに、次世代のSNSになるのではないかと期待を寄せられています。この流れを受けて、米国最大手のテック企業である「Facebook」が、「Meta」への社名変更を実施。メタバースは、コミュニティ運営だけでなく、教育や広告、エンタメなどさまざまな領域への応用が期待されています。
本シリーズでは、これまでの記事の番外編として「メタバース」を取り巻く変化をお伝えしていきます。初回の記事では、メタバースの特徴を紹介したうえで、何がメタバースであるのかの定義を振り返りつつ、その代表的なプラットフォームを紹介していきます。
「相互運用性」や「経済の成立」……メタバースの7つの特徴

Meta社CEOのマーク・ザッカーバーグは、「メタバースは、モバイルインターネットの後継者となる」と語っています。
SNSのような平面世界ではなく、自分で着せ替えたアバターが、3次元の仮想空間上で他のユーザーと交流し、仕事や買い物をしてイベントに参加する。メタバースが描くのは、そうした「もう一つの現実」です。
新型コロナウイルス感染症により、「外に出られない」生活が現実に起こりうる認識が根付いたことで、メタバースへの期待はさらに高まっています。オンライン上で仕事やコミュニケーションして生活を送れることに人々が気づいたからです。
では、「3次元の仮想空間」と説明される、メタバースの特徴とは一体何なのでしょうか。米国のベンチャーキャピタリストのマシュー・ボール氏は2020年1月の投稿にて、その特徴を7つに定義しました1)。
1.永続的であること
「リセット」「一時停止」「終了」がなく永久に続いていく
2.同期性やライブ感があること
実生活と同じように、メタバース内ではすべての人にリアルタイムで同じ時間が流れる
3.誰でも参加できること
メタバース上では参加上限が存在せず、個々人が主体性を持ってあらゆるイベントに参加できる
4.経済が成立していること
個人や企業は、メタバース上で創造したものを所有・投資・販売できる。そして、価値を生み出した分だけ「仕事」として報酬が得られる
5.物理世界とデジタル世界を越境する体験をもたらすこと
デジタルとフィジカル、プライベートとパブリック、オープンとクローズなど、境界を超えた体験ができる
6.プラットフォームをまたがること
データやデジタルアイテム、コンテンツなどを、プラットフォームが異なっても相互運用できる(例:あるメタバースで購入した靴を、他のメタバースでも着用できる)
7.多数の人々によって運営されていること
「Facebook」のように、一つの大きなプラットフォーム企業が運営してコンテンツ等を提供しているのではなく、個人から企業までの幅広い人々が共同運営している
1990年代に現在のSNSの存在を想像するのが難しかったように、私たちも現時点でメタバースを理解することは難しい状態です。それは、FacebookやTwitter、Instagram、TikTokなど、さまざまなプラットフォームが現れることで、やっとSNSの輪郭が見え始めていったからです。時間をかけてさまざまな製品やサービスが出現することで、メタバースは少しずつ世の中に浸透していくと考えられています。
また、インターネットへのアクセスの方法がスマートフォンに少しずつ移行していったように、今後はより自然で身近なものとしてメタバースの世界にアクセスできる方法が開発される可能性があります。ユーザーが意識しなくても、人々の生活のあらゆる場所でメタバースが利用される環境が実現していくのです。
1)MatthewBall.vc(https://www.matthewball.vc/all/themetaverse)
ゲームを筆頭とした多様なプラットフォーム

2022年3月時点では、メタバースに該当する、あるいはメタバース的な性格を持つプラットフォームが多数登場しています。
そのなかでもいくつかのプラットフォームを例として紹介します。この中には、FacebookやTwitterがSNS時代を牽引したように、今後のメタバース時代を代表するサービスが含まれている可能性があります。
「Minecraft」2)
マイクロソフトの子会社であるMojang Studiosが提供している、ユーザーが建物や世界を自由に構築できるゲームです。自分なりの建物や土地をつくったり、プレイヤー同士でサバイバル体験を楽しんだりと、幅広い要素によって世界中から人気を集めています。現代の若者世代の間では、Minecraftをオンライン通話をつなぎながら複数人でワイワイとプレイして楽しむ経験をしている人も数多くいます。
「あつまれどうぶつの森」3)
コロナ禍における世界的なロックダウンにて、老若男女問わず熱狂的な人気を博したNintendo Switchのゲームです。ユーザーは自分の分身となるアバターを操作し、家具をつくり、野菜を育て、お金を稼いで無人島での生活を自由に楽しむことができます。アバターの着せ替え衣服として、著名なブランド・アパレルのアイテムも数多く登場しており、企業とのコラボレーションコンテンツも数多く展開しています。
「Fortnite」4)
Epic Gamesが提供するバトルロワイヤルゲームです。ユーザーはFortnite内でコンテンツを作成できる「クリエイティブモード」が存在しており、「スキン」と呼ばれる自分のコスチュームなどを作成し、アバターを着せ替えることができます。また、ゲームをプレイするだけの場所ではなく、コミュニケーションのために集うSNS的な場所へと変遷しつつあり、メタバース内で音楽ライブが開催されたり、実在するファッションブランドの服が着用できたり、フェラーリの新型自動車が運転可能になる等、イベントが活発に行われています。
「Roblox」5)
ユーザー自身がゲームをプログラミングしたり、他のユーザーが作成したゲームをプレイできたりするオンラインゲーミングプラットフォームです。3Dの遊び場として、メタバース上に家を建てたり、プレイヤー同士で戦ったり、制限時間内にタワーの頂上に登ったりと、リアルではできない多種多様な遊びをつくれます。小学生のYouTuberが大金を稼ぐ事例が増えているように、海外ではRobloxでゲームを有料化してお金を稼ぐ小学生のスタークリエイターが増えています。
「Cluster」6)
日本のクラスター株式会社が開発・運営するメタバースプラットフォームです。3DCG空間上でアバターを介してコミュニケーションをとれる、「ソーシャルVR」と呼ばれるサービスに分類されています。イベントや会議を誰でも手軽に開催できるのが特徴で、イベント作成機能・参加者の権限設定・PDFや画像等を表示するスクリーン・テキストチャットなど、機能が豊富です。未来のZoomミーティングは、Clusterミーティングに置き変わるかもしれません。
「VRChat(VR)」7)
米国のVRChat社が運営する、世界で最もユーザー人口が多いソーシャルVRプラットフォームです。参加者の人口全体が多いことで、一つの部屋(インスタンス)にたくさん人が集まりやすいことが特徴。賑やかで活気あるコミュニケーションが取れるため、参加者同士の交流目的では非常に優れたプラットフォームです。
「STYLY」8)
株式会社Psychic VR Labが開発・運営する、VR/AR/MRコンテンツを制作・閲覧できるクリエイティブプラットフォームです。Webブラウザ上や、VR空間内での直感的な操作でVR空間をデザインできる "STYLY Studio"を提供しており、東京・大阪・名古屋・札幌・福岡・京都の6都市で「リアルメタバースプラットフォーム」を展開しています。現実世界の街をメタバース化し、都市空間に向けてAR/MRコンテンツの配信が可能です。
このように、さまざまなプラットフォームが次々と登場し、メタバースは盛り上がりを見せはじめています。しかし、いま現在では先述の7つの特徴をすべてもったプラットフォームは存在せず、スタンダードとなったサービスは登場していません。
上記以外にも、2021年8月にMeta社が仮想空間の会議サービスHorizon Workrooms9)のベータ版を提供開始するなど、仕事上での普及浸透も見据えたポジション争いが続いています。
2)Minecraft(https://www.minecraft.net/ja-jp)
3)あつまれ どうぶつの森(https://www.nintendo.co.jp/switch/acbaa/index.html)
4)Fortnite(https://www.epicgames.com/fortnite/ja/home)
5)Roblox(https://www.roblox.com)
6)cluster(https://cluster.mu/)
7)VRChat(https://hello.vrchat.com)
9)Horizon Workrooms(https://www.oculus.com/workrooms/?locale=ja_JP)
教育や医療といったメタバースの応用例

ここまで紹介してきたメタバースプラットフォームのうえでは具体的にどのようなユースケースや応用例が期待されるのでしょうか。
・ユーザー⽣成型コンテンツ
ユーザー自身がコンテンツを作成し、他のユーザーにシェアすることで拡張性が⽣まれる仕組みです。例えば、Robloxでは⾃分でゲームそのものを作成し、販売が可能になっています。
・ライブイベント
アバターとなって空間を共有することで、従来のYouTube等でのライブ配信では再現できなかった⼀体感を醸成できます。最近では、ミュージシャンの⽶津⽞師がFortnite内でバーチャルライブを開催したことが話題になりました。
・教育
現在、MinecraftやFortniteでは教育向けのバージョンが公開されています。ゲームを通じて友人とコミュニケーションをしながら、楽しく科学やプログラミングを学ぶといった活用方法が考えられます。
・医療
最も想像しやすいのは、オンライン診療での活用です。メタバース内に病院を建設し、その中で医療を提供することで、既存の病院と同じように医師と患者が関われる環境を構築する研究が進んでいる10)など、今後の浸透が期待される分野の一つです。
10)日本経済新聞(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC09FNY0Z00C22A2000000/?unlock=1)
メタバースを取り巻く誤解

メタバースは現段階での曖昧さから誤解されやすい存在です。下記では、よくある誤解のうちいくつかの代表例を挙げます。
・メタバースはバーチャルリアリティ(VR)ではない。
VR=メタバースだとイメージしている方が数多くいますが、VRはメタバースの一つの体験方法でしかありません。VRデバイスがなくてもメタバースには参加可能であり、ARやMR(現実世界と仮想世界の融合)など、今後どのようなアクセス手段が普及するかが議論されています。また、ひとつのVR空間に入っても、他のプラットフォームにまたがった体験ができるわけではないことも留意点です。
・メタバースは「単なるゲーム」ではない
Minecraftやあつまれどうぶつの森、Fortnite等はPlayStationシリーズやNintendoSwitchから発売されているため、一見するとメタバース=ゲームだと感じる方も数多くいます。しかし、ゲーム内で得られたお金やアイテムは他のプラットフォームで使用できないことや、参加人数に上限があることがメタバースの定義からは外れる部分です。
メタバースだとされるゲームは、プレイヤー同士の交流やイベント、制作したコンテンツの売買など、ソーシャルな部分を含んでいます。しかし、それはあくまで一要素であり、ゲーム自体はメタバースそのものではありません。
ここまでメタバースの特徴と、該当すると言われる各プラットフォーム、そしてメタバースの活用例やよくある誤解を紹介してきました。「メタバース」という名前と概念だけが先行するなか、そのなかで競合よりも先にプラットフォームとして定着するために、各社は試行錯誤を続けています。
また、教育や医療など具体的な応用分野とその可能性が実証されはじめており、日進月歩で研究が進んでいます。今後の世界を大きく変える可能性がある、インターネットの新しいステージに目が離せません。