VRを使ったバーチャル会議システムからバーチャルショッピング、NFTまで──メタバースがもたらす未来

VRを使ったバーチャル会議システムからバーチャルショッピング、NFTまで──メタバースがもたらす未来

イメージ画像:メタバース空間上の都市で男性のアバターが歩いている

いま、「メタバース」という言葉が注目を集めています。メタバースとは、インターネット空間上に構築された、ユーザー同士がコミュニケーションできる仮想3次元空間であり、そこで展開されるサービスを指します。

初回の記事では、メタバースの特徴を紹介したうえで、メタバースの定義を振り返りつつ、その代表的なプラットフォームを紹介していきました。では、具体的にメタバースはどのように私たちの生活を変えうるのでしょうか。

本記事では、バーチャルオフィスや、バーチャルショッピング・NFTで既に現実世界において普及が始まっている事例から、メタバースの具体的な事例を紹介していきます。

バーチャルオフィスに出社する未来

イメージ画像:男性が未来の都市を背景に仕事をしている

仕事でメタバースを使用すると聞いて、まず思い浮かべるのはこの「バーチャルオフィス」ではないでしょうか。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、リモートワークが普及した現在、物理的なオフィスに出社せずに仕事するハードルは以前よりも格段に下がりました。一方で、対面でコミュニケーションが取れないことにより、従業員同士の交流が難しくなったとの意見も耳にします。

そこで挙がるのが、社員が「バーチャルオフィス」に出社し、リモートワークでありながらも同じオフィスで同期性を保ちながら働くというアイデアです。この新しい仕事のスタイルは、誰もが考える夢物語のようでありながらも、実際はすでに普及が少しずつ進んでいます。その事例をいくつか紹介します。

世界ナンバーワンSNS企業が先行する「Horizon Workrooms」1)
米国最大手のテック企業である「Facebook」が、「Meta」への社名変更を実施し、提供しているバーチャル会議室です。コミュニティ運営だけでなく、教育や広告、エンタメなどさまざまな領域への応用が期待されるメタバース領域に、世界最大のプラットフォーマーのひとつである同社が、率先して旗を立てたサービスです。

「Horizon Workrooms」は、「家にいながら直接会う」をモットーに、どこにいても同僚と一緒に仕事ができることが特徴です。アバターとしてVR空間で会議に参加したり、パソコンのビデオ通話を通してバーチャルルームでお話したり、ホワイトボードを使って参加者のアイデアをまとめたりできます。また、実際に一緒にいる感覚で表現豊かな会話を楽しめるUXが整えられていることで、業務の生産性向上が期待されます。

デバイスを越境するプラットフォーム「Spatial」2)
「Spatial」は、複数の異なる場所にいるユーザーが、同じVR/AR空間を共有できるプラットフォームです。
ビデオやアバターを通じて、最大で25人から30人のユーザーが同じ空間でコミュニケーションできます。特徴は、異なるデバイス(クロスデバイス)でコミュニケーションが取れること。対応機器はマイクロソフトのHoloLensやMagic Leap、Oculus Quest、タブレット端末やデスクトップPCまで、多岐にわたります。

不動産仲介のあり方を変える「eXp Reality」3)
アメリカのワシントン州に本社を構える、アメリカの不動産仲介会社「eXp Reality」は、オフィスを一切持たない「バーチャルブローカー」です。同社に登録したエージェントは「eXp World」という専用ソフトを使用し、現実にオフィスを持たずに、バーチャルオフィスへログインして業務を行います。

この背景には、アメリカの不動産エージェント(仲介業者)のほとんどが個人事業主であることが挙げられます。顧客は不動産会社ではなく、個人のエージェントを通して家を選びますが、不動産エージェントは売買用のポータル等を保有する「ブローカー」に所属する必要があります。そのため、ユーザーであるエージェントは「eXp Reality」のブローカーに所属することで、メタバース上で顧客へ案内できるプラットフォームを提供してもらえる仕組みです。

1)Horizon Workrooms(https://www.oculus.com/workrooms)

2)Spatial(https://spatial.io)

3)eXp Reality(https://exprealty.com)

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バーチャル空間でのショッピングからNFTまで

イメージ画像: 女性がメタバース上のファッションショップで服を選んでいる

インターネットの進化系としての3次元仮想空間のメタバースでは、自分で着せ替えたアバターが、他のユーザーと交流し、仕事や買い物をしてイベントに参加する。そうした「もう一つの現実」をメタバースは描きます。

小売店をDXするバーチャル店舗「Obsess」4)
私たちが日々生活を営むなかで、衣食住は欠かせません。メタバース内でも生活用品の売買が行われ、経済が回りはじめています。いま現実世界で商品を販売している各種メーカーやアパレルブランドも、メタバースへの展開を始めると予想されており、そこで販売店舗の役割を担うのが「Obsess」のようなショッピングモールです。

「Obsess」は米ニューヨークに本社を置くメタバースのプラットフォーム企業です。「Obsess」は、出店者向けに「バーチャル店舗」を提供しており、アバターを使った買い物ができます。この店舗は小売店に近いポップアップの発想から生まれていますが、実店舗のデータを取り込み、完全バーチャルで再現した店舗なども生まれています。日用品のみならず、メタバース上の「デジタル不動産」など無形資産も購入できることも特徴です。

世界最大のNFTマーケットプレイス「OpenSea」5)
また、メタバース上で購入できるアイテムには、「NFT」が含まれます。NFTは「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」の略称で、ブロックチェーンの技術を応用することでデジタルデータに代替できない識別情報を持たせ、希少性や唯一性を付与する技術です。特定の中央集権的なプラットフォーマーを介さずに所有権の売買ができる点と、コンテンツの制作者にインセンティブが発生することで、自律的に拡張していくプラットフォームが実現できる点が特徴です。NFTの売買では「OpenSea」のようなNFTマーケットプレイスが利用されます。

OpenSeaはNFTを無料で作成し、販売やオークション形式での提供が可能なサイトです。ゲームアイテム、イベントチケット、デジタルアート、さらには物理的なアイテムに至るまで、所有権を売買できます。NFTは2021年に「NFTアート」のオークションが注目を集め、デジタル・アーティストBeepleのNFT作品が6900万ドル(約75億円)で落札されるなど、一世を風靡しました。6)

現在、NFTは純粋な売買と所有、コレクションの対象から、ゲームやサービスなど実用性に紐付く商品へとシフトする過渡期にあります。メタバースで着用されるアバターを、現実世界のように売買できることで、そこに経済圏が生まれる。この仕組みを担保するのがNFTであり、それゆえに複数のメタバースを横断して固有の価値を提供できるNFTマーケットプレイスは、その価値が高まりつづけています。

4)Obsess(https://obsessar.com/metaverse-shopping)

5)OpenSea(https://opensea.io)

6)TechCrunch Japan(https://jp.techcrunch.com/2021/03/12/2021-03-11-beeples-69-million-nft-sale-marks-a-potentially-transformative-moment-for-the-art-world)

プラットフォーマーを狙う企業も登場

イメージ画像:メタバース上のでショッピングカートを押している

こうしたメタバースに根ざした企業が次々と現れるなかで、すでに現実世界において一定の力を持つ企業が、メタバースへの参入を検討するケースがあります。

代表的な企業としては、米国に本部を置く世界最大のスーパーマーケットチェーン「Walmart」です。Walmartは仮想現実の可能性に早くから着目し、VRショッピングの可能性を探求していました。例えば、ショッピングカートにアイテムを選んで投げ入れる、イメージビデオを2017年頃に公開しています7)。また2022年には、独自の暗号通貨とNFTコレクションを作成するという計画で、メタバースに参入すると『CNBC』により報じられました8)

また海外の有力プラットフォーマーだけでなく、国産のメタバースも健在です。株式会社HIKKYが提供する「バーチャルマーケット9)」は、家に居ながら参加できる“VRコミケ”として注目を集めました。この日本発ショッピング特化型メタバースは、お祭りのように一定期間のみ開催されることが特徴です。

最新のVket2021は2021年12月に開催され、80社以上の企業やIP、アーティストが出展して開催。VRヘッドセットを使えば実際に街を歩くような体験ができるということで、大手企業も多数出展。ヤマハ発動機がVRシェアライドサービスを展開したり、JR東日本が秋葉原駅を再現した空間を出展したりと、話題を集めました10)。一般出展者は約600ブースにものぼり、来場者数は100万人を超えました。2021年には「バーチャルリアリティマーケットイベントにおけるブースの最多数」としてギネス世界記録に認定されています11)

ここまで、メタバースの業務上での使用例や、日常生活への浸透について、その活用例をさらに深堀して紹介してきました。メタバースは「未来に登場する」のではなく、いま現在、リアルタイムで普及しはじめているものだと認識する必要があるかもしれません。

また、今後は衣食住など生活のあらゆるものが仮想空間に移行していくと予想されていますが、その際ハードルになるのはデバイスの問題です。現状、メタバースへアクセスする方法はVRゴーグルやスマートフォン、PCブラウザ、各種ゲーム機などが挙げられます。しかし、3D空間の没入感を最も生み出すVRゴーグルはまだまだ高価で、視界を奪われる性質上、利用可能な場所が自宅などに限られてしまいます。

現代のスマートフォンと同じくらい手軽にメタバースにアクセスする方法が求められるなか、注目を集めるのがスマートグラス。すなわち「拡張現実」「複合現実」を指すAR・MRデバイスです。メガネを装着し、そこにメタバースが立ち現れるようになれば、一般ユーザーへの普及ハードルが格段に下がります。これはあくまで一例であり、そのほかにも最も良いユーザー体験に向けていま試行錯誤されています。私たちがメタバース上で働く未来も、そう遠くないのではないでしょうか。

7)THE VERGE(https://www.theverge.com/tldr/2022/1/5/22868323/walmart-metaverse-shopping-video-viral-old)

8)CNBC(https://www.cnbc.com/2022/01/16/walmart-is-quietly-preparing-to-enter-the-metaverse.html)

9)バーチャルマーケット2021(https://winter2021.vket.com)

10)PR TIMES(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000121.000034617.html)

11)PR TIMES(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000103.000034617.html)