「病状への理解」をXRで促す──体の状態の可視化から、病状に関するリテラシー向上まで多様なソリューションを解説

「病状への理解」をXRで促す──体の状態の可視化から、病状に関するリテラシー向上まで多様なソリューションを解説

イメージ画像:VR体験をする患者を見守る医師

医師が患者に疾患について説明する際、多くの場合は口頭で説明が行われます。しかし、医療の専門家ではない患者にとって、医師が話す内容が理解できないケースも少なくありません。

いかなる病気にかかったのか、このあと体に何が起こるのか、どのような治療や手術が必要なのか……病気を告げられた患者は多くの場合、不安になります。こうした患者の感情を和らげ、治療体験を向上させるXRの技術がいま注目を集めています。

本記事では、「『病状への理解』をXRでどう促す? 治療内容のインストラクション、インフォームド・コンセントにおけるAR/VRの活用」の内容を踏まえて、XRを用いて医師と患者との間のコミュニケーションを円滑にする具体的なソリューションについて解説します。

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◆患者の体の状態を視覚化するソリューション
◆体や病気の仕組みについてリテラシーを高めるソリューション
◆その他、具体的な治療・病状に則したXRソリューション
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患者の体の状態を視覚化するソリューション

イメージ画像:医療にXRを取り入れるドクター

多くの場合、CTやMRIで取得された患者のデータは2次元の画像となっており、そこから医師が病状を脳内でイメージしながら解説を行っています。しかし、近年登場しているXRソリューションは、リアルタイムで病状を視覚化し、患者や医療専門家への直感的な情報提供を可能にします。

・Brainlab「Mixed Reality Viewer」

「Brainlab Mixed Reality Viewer1)」は、MR技術を用いた手術計画やシミュレーションツールです。 Magic Leap社のMRヘッドセットを使用して複数のユーザーが同時に同じホログラムを共有。患者データを基にした3Dモデルを操作し、手術計画やシミュレーションを行えます。

ヘルスケアプロバイダーであるGenesisCare社では、がん治療戦略の一環として、Mixed Reality Viewerをすでに活用しています2)。これを一度に複数の放射線ビームを腫瘍に照射する高度な放射線治療技術を行うSRS (stereotactic radiosurgery) の治療技術と組み合わせることで、患者が自分に行われるがん治療の内容をより理解可能になったといいます。

1)https://www.brainlab.com/mixed-reality-launch/

2)https://www.news-medical.net/news/20200213/UK-cancer-patients-use-Brainlab-Mixed-Reality-Viewer-to-visualize-understand-their-treatment.aspx

・Surgical Theater「Precision XR」

「Precision XR」を提供するSurgical Theater3)は、バーチャルおよび拡張現実医療サービスを提供しています。同社のプラットフォームでは、CTやMRIなどによって構成された患者の体内を患者と担当外科医が一緒に歩く体験を提供します。

この「ウォークイン」体験は、外科医と患者の医療情報のより良いコミュニケーションを提供し、患者の満足度を高め、患者エンゲージメントを向上させ、病院の業績を改善することに繋がるのではないかと考えられています。ジョージワシントン大学病院、スタンフォード医療センターなどの医療機関がすでに患者治療を通してPrecision XRを利用しています4)

たとえば、VRヘッドセットを装着している間、医師と患者は血管の間に一緒に歩いて入り込み、動脈と腫瘍あるいは動脈瘤に立ち止まれます。患者は、外科医が手術中に予定している手術手順を説明、デモするのを聞きながら、頭を左右、上下に動かすだけで、360度の自らの体内をより詳しく探索できます。この体験では、手術方法やその他の医療上の懸念に関する疑問に視覚的に答えることで、患者とその家族に自らの病状に関する有益かつ深い理解を与えます4)

3)https://surgicaltheater.com/

4)https://kyodonewsprwire.jp/release/201905296935

・EchoPixel「True 3D」

True3D5)は体の組織や臓器を3Dホログラムとして実物大で表示できます。従来2Dで確認していた医療用画像データを3D処理することで、臨床的な意思決定や疾患の説明に役立てられます。

ハードウェアはコンピューターと立体表示ディスプレイから構成されており、付属のペンを用いることで臓器を360度回転させながら様々な方向から観察、インタラクティブに操作可能。また血管トラッキングや腫瘍径の計測等、各種計測機能を装備しており、さまざまなデータをもとに病状の解析を行います。

5)https://echopixeltech.com/

体や病気の仕組みについてリテラシーを高めるソリューション

イメージ画像:3Dビジュアル化したソフトウエアを操作するドクター

外科医などの教育用シミュレーションとしても、3Dビジュアル化ソフトウェアは使用されています。そのうち、医療専門家だけでなく、一般ユーザーも利用可能な教育用アプリケーションを用いることで、患者のリテラシーを高めることが期待できます。

・Medrtronic「Touch Surgery」

Touch Surgery™6)は、VRとAR技術を組み合わせた手術プロセスの学習プラットフォームです。スマートフォンやタブレットでアプリを利用して、誰もが手術の方法を学べます。2013年に創業したDigital Surgery社のサービスとして開発され、2020年にはMedrtronic社が買収 7)。現在はMedrtronicのサービスとして提供されています。

こうしたXRを用いた手術トレーニングアプリは数多く存在しますが、とりわけTouch Surgery™はiOSとAndroidで誰でも無料でダウンロードできることが特徴です。世界中で 25万人以上のユーザーがいるとされる8)このプラットフォームを活用すれば、外科医や研修生だけでなく、患者までもが同様に手術の手順などに関する適切な知識を学び、理解を深めることができます。

6)Touch Surgery™ Enterprise(ログイン必要)

7)https://www.mobihealthnews.com/news/emea/medtech-conglomerate-medtronic-purchases-digital-surgery-bid-expand-their-surgical

8)https://simulationcanada.ca/sim-company/touch-surgery/

・3D4Medical「3D4Medical」

3D4Medical9)は、解剖学や生理学の知識を学習できる、医学的な3Dビジュアル化ソフトウェアです。スマートフォンやタブレットでアプリを利用し、3Dモデルを操作して学習します。医療専門家だけでなく一般ユーザーも利用可能で、より広範囲な知識の獲得が可能になっています。

医療用途のための3DアニメーションとVR/AR技術を組み合わせた教育および病状説明ツールです。患者や医師が身体の構造や病気の進行を視覚化し、理解を深めることができます。これにより、患者は治療内容に納得し、安心感を持って治療を受けられます。また、長期的な治療が必要な患者に対して、3D4Medicalを使用して適切な知識を教育し、治療への協力を促すことも可能に。

9)https://3d4medical.com/

その他、具体的な治療・病状に則したXRソリューション

イメージ画像:腎臓の超音波と解剖学的モデルを使用して患者の腎臓の健康状態を分析する医師

・Weltenmacher「Dialysis: Orientation」

「Dialysis Orientation10)」は、患者が腎不全に対してどの治療法を選択するかの意思決定プロセスを支援するVRアプリです。Weltenmacher社が開発したアプリでは、腎不全に対する概要と治療法を学べるVRトレーニングも提供。血液透析、腹膜透析 、腎臓移植などについて学び、連続外来腹膜透析(CAPD)の手順をシミュレーションできます。

このアプリは、数多くのVRハードウェアでダウンロードして使用可能。システム全体を「すぐに使用できる」ことも強みとなっています。

10)https://weltenmacher.de/en/products/dialysis-orientation/

・AccuVein「AccuVein」

AccuVein11)は、患者の血管を視覚化するAR技術です。血管の位置を正確に把握することで、治療や手術の効率を向上させることができます。

AccuVeinのデバイスを使用すると、患者の皮膚上に血管が投影されます。これを用いて医師や看護師は表在静脈、弁、分岐点などを把握し、適切な治療部位に対する注射などを行えます。またこの映像を患者に見せることで、針治療の際に自分の血管構造を視覚的に把握してもらい、治療や手術に対する不安を軽減できます。

11)https://www.accuvein.com/

本記事で取り上げてきたソリューションは、患者に治療内容を理解してもらい、安心感を持って治療を円滑に進めることで治療体験を向上させます。患者が自らの意思と選択のもとに最善の医療を受けることは「患者の権利」であり、そのためには患者本人の正しい病状理解が欠かせません。さまざまな方法で病状を視覚化したり、患者のリテラシーを高めたりすることで、XRは臨床現場によりよい進歩をもたらしていくのではないでしょうか。