病状の理解を深め、適切なケアの提供を目指して──パーキンソン病・レビー小体型認知症向けVRコンテンツを住友ファーマが制作

病状の理解を深め、適切なケアの提供を目指して──パーキンソン病・レビー小体型認知症向けVRコンテンツを住友ファーマが制作

イメージ画像:病院でVRゴーグルを使って仮想現実を体験する医療従事者

近年、XRが疾患に対する教育や理解促進の役割を担うのではないかと期待を集めています。とりわけ、「患者が日常生活で抱えている困難」を医師や医療従事者、家族に理解してもらうためには、XRが有効な可能性があります。

住友ファーマでは、医療従事者・介助者向けのVRコンテンツを独自制作。現在、疾患の啓発や情報提供活動の一環としてこのコンテンツを活用しています。

本記事では、パーキンソン病とレビー小体型認知症に関わる症状の理解を深め、適切なケアの提供を目的とした、住友ファーマが制作したVRコンテンツを紹介します。

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◆第三者の理解と適切なケアが必要なパーキンソン病・レビー小体型認知症
◆医療関係者や患者だけでなく、家族をはじめとする介助者への啓発活動も可能にする
◆患者にしか見えない世界を一人称で体験するVRコンテンツ
◆患者や家族との信頼関係が、よりよい治療体験をもたらす
をご覧いただけます。

第三者の理解と適切なケアが必要なパーキンソン病・レビー小体型認知症

現在、医療におけるXRの有効性についてさまざまな研究が進められています。たとえば、『The use of virtual reality in patient education related to medical somatic treatment: A scoping review』1)という論文によれば、「患者教育におけるVRの応用は将来的な見込みのある技術である。患者は非常に満足し、病状や治療内容に対して理解度が向上したと感じる」と記載されています。

こうした先行研究などを踏まえ、住友ファーマではパーキンソン病とレビー小体型認知症に関わるVRコンテンツを制作しています。

イメージ画像:震える手で水の入ったグラスを持つパーキンソン病の患者

パーキンソン病は、脳内のドパミンの減少によって発症する神経変性疾患です。主な症状2)として、無動(もしくは運動緩慢)、振戦(手足が震える)、筋強剛(筋肉がこわばる)、姿勢や歩行の異常などが現れます。これらの症状は進行性であり、患者の日常生活に大きな影響を及ぼします。

また、レビー小体型認知症は、アルツハイマー病に次いで二番目に多い認知症です。この疾患は、視覚的幻覚、運動機能の低下(パーキンソン病と類似)3)、睡眠障害などの症状が現れます。これらの症状は患者の精神的および身体的な健康に影響を与えるため、第三者の適切なケアが必要になります。

パーキンソン病とレビー小体型認知症は、現在の治療法では症状緩和が目的となっています。治療には薬物療法やリハビリテーションが主に行われますが、個々の患者の症状や状況に応じて医療従事者や家族をはじめとする介助者など、周囲の人間からの理解やサポートが求められます。

1)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S073839912100793X

2)https://bit.ly/3OyBAgX

3)https://healthcare-sumitomo-pharma.jp/disease/dlb/about/

https://www.neurology-jp.org/public/disease/lewy.html

医療関係者や患者だけでなく、家族をはじめとする介助者への啓発活動も可能にする

しかしながら、これら疾患に対する一般的な認知度は高まっているものの、患者が抱える困りごとや、具体的な症状に対する認知度は高くありません。患者自身にしかわからない症状や日常生活での困難などについては伝えづらいという課題がありました。

イメージ画像:歩行を介助する女性の介護士

住友ファーマでは、医療関係者や患者だけでなく、家族をはじめとする介助者にもその病状や症状を啓発することが製薬企業としての使命だと感じています。そのため、より広範な支援や啓発活動を可能とするためにVRコンテンツを制作しました。

『VRコンテンツでパーキンソン病やレビー小体型認知症の診断をサポート!』4)というページでは、リアルな体験を通じて症状や患者の困りごとを理解できるコンテンツを用意。医療関係者や家族をはじめとする介助者がパーキンソン病やレビー小体型認知症に対する理解を深め、患者の状況や感情に寄り添ったケアの提供を目指しています。

これらのVRコンテンツは、医療従事者や患者の実際の声を聞きながら制作を進めています。また患者の一人称の体験だけでなく、「脳内でどのように疾患が引き起こされているのか」という発症機序、「薬がどのように働いているのか」という薬剤の作用機序など、医療従事者の理解を深めるコンテンツをリサーチや論文をもとに制作しています。

4)https://sumitomo-pharma.jp/lp/trerief/information/01_index.html

患者にしか見えない世界を一人称で体験するVRコンテンツ

具体的には、パーキンソン病やレビー小体型認知症の患者の病期に応じた症状を3段階のVRコンテンツをリリースしています。

イメージ画像:パーキンソン病やレビー小体型認知症の診断をサポートするためのVRコンテンツ

・第1弾:日常生活動作-360

最初にリリースしたVRコンテンツでは、パーキンソン病やレビー小体型認知症患者が日常生活でどのような困りごとに直面しているかを体験できます。患者が診察室に来るときには比較的状態が良いことも多いですが、本当に重要なのは自宅での患者の生活状況です。このコンテンツでは、運動症状による日常生活の困りごとを体験できます。

・第2弾:TSUNAGU-360

続いて公開したVRコンテンツでは、進行期パーキンソン病やレビー小体型認知症患者の症状を伝えています。自分の意志とは関係なく、体の一部が勝手に不規則な動きをする「ジスキネジア」やウェアリング・オフ現象、立ち上がったりからだを起こしたりする際にふらつきやめまいなどを認める起立性低血圧まで、患者が症状の進行によって直面する困難の変化への理解を深めることができます。

・第3弾:Linaria-360

第3弾のVRコンテンツは、レビー小体型認知症の症状に特化した内容です。レム期睡眠行動異常症(RBD)や認知機能の変動、幻視など、患者にしか見えない世界をその人の視点で体験することができます。

これらのVRコンテンツにより、医療従事者や家族をはじめとする介助者が患者の状況に寄り添い、適切なケアを提供することができるようになると期待しています。

患者や家族との信頼関係が、よりよい治療体験をもたらす

イメージ画像:症状について患者さんとコミュニケーションをとる医師

実際に医療従事者からは、VRコンテンツを通じて患者の状態に深い理解があるかないかではコミュニケーションの取り方が変わる、という意見もあります。患者の何気ない言葉をメディカルスタッフがキャッチできることで、より感情に寄り添った適切なケアを行い、患者からの信頼を得られるという声が寄せられています。

現在、このVRコンテンツは疾患の啓発や情報提供活動として、住友ファーマのMRが医療機関などに訪問した際に医療関係者の方に直接体験していただいています。加えて、小さな研修や説明会の場を設けて体験していただいたり、学会で展示したりといった活動も実施しています。

疾患に対する教育や理解促進などへXRを活用する動きは、まだまだ始まったばかりとも言えます。医療現場において、患者、家族そして医療従事者がより良い関係性を築き、適切なケアを提供していくために、これからもXRの可能性を検討していきます。