「アバター」とは何か? 仮想空間における身体性が変える人々の生活、仕事、コミュニケーションのこれから

「アバター」とは何か? 仮想空間における身体性が変える人々の生活、仕事、コミュニケーションのこれから

イメージ画像:アバターを使って次世代ソーシャルメディアオンライのンメタバースプラットフォームに没入する人

SNSやメタバースに関連して耳にすることが多い「アバター(avatar)」という言葉。

アバターとは、コンピュータ画面の中に登場する自分の分身キャラクターのことを指します。このアバターを通じて、人々は自己表現をしたり、仕事をしたり、新しい友達をつくったり、時には生涯をともにするパートナーを見つけたりします。

本記事では、メタバースやXRの浸透により重要性を増すアバターが、私たちの生活やアイデンティティをいかに変えるのかを解説していきます。

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◆アバターの進化──2Dアバターから3Dの「分身」へ
◆ゲーム、仕事、SNS……広がるアバターの活用
◆アバター、自己表現、アイデンティティ
◆いかなる「自己」であるかを選ぶ時代へ
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アバターの進化──2Dアバターから3Dの「分身」へ

日本語で「化身」「分身」とも訳されるアバターは、インターネット上の世界でユーザーの代わりに会話や行動をするために用いられる、いわば「3D空間における身体性」です。

アバターは、ユーザーの個人的なスタイルや興味、性格を反映する形でカスタマイズ可能です。アバターの外見や振る舞いは、他のユーザーが自分をどのように認識するかに影響し、ユーザーの仮想世界における没入感や存在感にも影響を与えます。これらの要因から、アバターの選択は現実世界の容姿と同じように、メタバースの体験に影響する重要な要素になっています。1)

イメージ画像:仮想現実オフィスでオンラインビジネスミーティングをアバターと行うマネージャー

近年、メタバースやXR、あるいは映画『アバター』などを中心に耳にする機会が増えているこの言葉ですが、もともと古くからインターネットで広く用いられていました。

例えば、2003年4月に開始した2Dアバターサービス「Yahoo!アバター」では、顔や髪型、服装、アクセサリーといった各種アイテムを組み合わせて、ユーザーが自分オリジナルのアバターを作成。ネット上のサービスにアイコンとして表示させて、他のユーザーとのコミュニケーションを行わせることが可能でした(2013年3月にサービス終了)。2)

また、時間の経過や技術の進歩とともに、アバターは2D画像から今日の複雑なアニメーションやインタラクションが可能な3Dモデルへと進化していきます。その草分け的存在だと言えるのが、米国のLinden Lab社が2003年に公開したメタバース「Second Life」です。建物やファッションなどをユーザーが制作して、その中でアバターになった自分や他者が現実の世界とは異なる人生を送るというコンセプトは、インターネット黎明期といえるこの時期には既に確立されはじめていました。

現在、メタバースの普及にともなって、アバターはユーザーの個性を表現するアイコンとして用いられるようになりました。ユーザーが自分の外見や表情をカスタマイズしたり、他人の制作した服や靴などのデジタルファッションを売買して着用し、アバター同士でコミュニケーションをとったりする機会も多くなっています。

イメージ画像:バーチャルリアリティのメタバースの中にあるショップでアバターとしてプレイし、新しいスニーカーモデルについて話し合う人々

さらに近年では、アバターごとの個性や表現力を高めるため、現実世界の自分の動きや仕草などをメタバースのアバターに反映させる技術も進化が続いています。例えば、2023年1月にソニーから発売された全身のモーションキャプチャーシステム「mocopi」は、頭と手足、腰に6つの小型センサーを装着することで、全身の動きを読み込むことが可能に。メタバース業界からも注目を集めています。3)

1)Avatars: Shaping Digital Identity in the Metaverse

2)https://www.gamebusiness.jp/article/2012/10/31/7040.html

3)https://www.sony.jp/mocopi/

ゲーム、仕事、SNS……広がるアバターの活用

メタバースやXR空間にてアバターが使われる目的としては、ゲームだけが注目を集めているわけではありません。仕事やSNSを代替する役割としての活用も見込まれています。

仕事での活用を挙げるならば、Meta社が提供しているバーチャル会議室サービス「Horizon Workrooms」では、Zoomなどを用いたオンラインコミュニケーションをさらに進化させ、アバターとしてVR空間で会議を開催することが可能に。「同僚と一緒にいるような感覚」を生み出すことに注力しています。

ゲームという観点では、最もアバターの活用が進んでいるプラットフォームのひとつとして「FORTNITE」が挙げられるでしょう。Epic Games社が開発するFORTNITEは、総ユーザー数が約3.5億人を上回る大規模メタバースへと成長しています。ゲームだけでなくイベントも開催され、2020年にはシンガー・ソングライターの米津玄師のバーチャルライブを開催したことが話題になりました。4)

また、「バーチャルSNS」と呼ばれるメタバースも存在しています。日本発メタバースの「cluster」は、ユーザーがアバターを選んでバーチャル空間に入り、誰かが制作したワールド(=バーチャル空間)を散策したり、イベントや音楽ライブに参加したりできます。また、他のアバターと友達になり、チャットや音声でコミュニケーションできます。5)

4)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63277660R00C20A9000000/

5)https://www.moguravr.com/cluster-5/

アバター、自己表現、アイデンティティ

こうした普段の活動がメタバースに代替され、生活におけるオンラインの比率が上がるほど、生身の身体や自己よりもアバターの自分に比重が置かれる、といったアイデンティティの逆転が発生することがあります。

例えば、日本発スマートフォン向けメタバース「REALITY」では、一日平均利用時間が20時間を超えるユーザーも存在するというデータが出ていると言います。6) 特に何かしらの理由で外出が難しい方などは現実の自己よりも、アバターの自己のほうが他者に接続されている時間が長いことが考えられます。

また、メタバースで仲良くなって現実世界で結婚するケースも増えているほか、6) コロナ禍において先述のREALITYや任天堂の人気ゲーム「あつまれどうぶつの森」で結婚式を開催した夫婦もいます。7) 新郎新婦はウエディングドレスや白いタキシードを着たアバターで、結婚式場の空間で挙式を行う。そこには普段仲良くしているアバターの友達も集まり、3Dの花束を渡したり、祝福したりして、最後にはみんなで集合写真を撮るといったことが行われます。

イメージ画像:メタバースのVRコメディ クラブのステージでライブをするコメディアンのアバターとプレイする人々

ここまで現実とバーチャル世界の境界が曖昧になってくれば、アバターの存在に現実の人生が影響を受けることも想定できるでしょう。例えば、身体的な障害や吃音、社交不安障害などで社会的承認を十分に得ることが難しい方でも、バーチャル空間内で良好なコミュニティを形成できれば、それをきっかけによりポジティブな人格形成に寄与することも考えられます。

6)https://note.com/unityjapan/n/n44df28951540

7)https://www.mwed.jp/articles/12256/

アバター、自己表現、アイデンティティ

アバターは手軽に切り替えることが可能なため、自分とは異なる性別のアバターをはじめ、動物やロボットなど、好みに合わせて使いたいアバターを選ぶことができます。現実世界の自分とは異なるアバターを選ぶ人も少なくなく、SNSにおけるアイコンや、1人1つ以上のアイデンティティを持つ感覚にも例えられます。6)

デジタルなアイデンティティが「自己」という存在に影響を与えることについて、いまさまざまな研究や実験が行われはじめています。次の記事では、アバターと近年の心理学や認知科学の研究をかけあわせて見えてくる成果をご紹介していきます。

ここまで現実とバーチャル世界の境界が曖昧になってくれば、アバターの存在に現実の人生が影響を受けることも想定できるでしょう。例えば、身体的な障害や吃音、社交不安障害などで社会的承認を十分に得ることが難しい方でも、バーチャル空間内で良好なコミュニティを形成できれば、それをきっかけによりポジティブな人格形成に寄与することも考えられます。

6)https://note.com/unityjapan/n/n44df28951540