【テーマ:COVID-19①】
2020年COVID-19パンデミック下の204の国と地域におけるうつ病と不安症の有病率と疾病負担

LANCET, 398, 1700-1712, 2021 Global Prevalence and Burden of Depressive and Anxiety Disorders in 204 Countries and Territories in 2020 due to the COVID-19 Pandemic. COVID-19 Mental Disorders Collaborators

背景

2020年以前,精神疾患は世界的な健康関連の負担の大きな原因だった。中でもうつ病と不安症が大きな割合を占めており,世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2019では,うつ病と不安症は,いずれも負担原因の上位25位に含まれていた。1990年以降,これらの障害の減少は認められていない。

COVID-19のパンデミックによって,精神的な不健康に影響を与える因子(社会的な制約,ロックダウン,学校や職場の閉鎖,経済活動の減少など)が強化される環境が作り出された。本研究では,2020年における世界規模のうつ病と不安症の有病率と疾病負担に対するCOVID-19パンデミックの影響を数値化することを目標とした。

方法

コロナパンデミック下の2020年1月1日~2021年1月29日の間に発表された,うつ病と不安症の有病率を報告したデータについて,系統的レビューを行った。

比較可能性を維持するため,うつ病と不安症の定義は,DSM-IV-TRとICD-10の基準を順守しているGBDの枠組みを利用した。

COVID-19パンデミック下とパンデミック前(基準時点)において,典型的な一般人口集団でのうつ病もしくは不安症の有病率を報告している研究を対象とした。人の動き,SARS-CoV-2感染率,日々の超過死亡率などCOVID-19の影響の指標を用い,メタ回帰分析によってうつ病と不安症の有病率のパンデミック前とパンデミック下での変化を計算した。このモデルを利用し,パンデミック前の有病率からの変化を年齢,性別,地域により計算した。DisMod-MR 2.1として知られる疾病モデリングメタ回帰分析バージョン2.1を利用した。最終的な有病率と疾病負担を,うつ病と不安症の障害生存年数(YLDs)と障害調整生存年数(DALYs)の計算に用いた。

結果

48の研究が組み入れ基準に合致した。1日当たりのSARS-CoV-2感染率と人の動きの減少という二つのCOVID-19の影響の指標が,うつ病の有病率の上昇[回帰係数(B)及び95%不確実区間(UI)は,人の動きで0.9,0.1-1.8(p=0.029),感染率で18.1,7.9-28.3(p=0.0005)]と不安症の有病率の上昇[人の動きで0.9,0.1-1.7(p=0.022),感染率で13.8,10.7-17.0(p<0.0001)]に関連があった。

パンデミックの影響は,男性よりも女性が大きく,B(95%UI)はうつ病で0.1(0.1-0.2;p=0.0001),不安症で0.1(0.1-0.2;p=0.0001)であった。また,老年層より若年層への影響が大きく,B(95%UI)はうつ病で-0.007(-0.0009--0.006),不安症で-0.003(-0.005--0.0002)であった(共にp=0.0001)。

2020年のパンデミックによる影響を,人の動きの減少と1日当たりの感染率で評価した場合,より大きな影響を受けた地域において,うつ病と不安症の有病率の上昇が大きかった。

世界規模で,COVID-19によって5,320万(4,480万~6,290万)例,率で27.6(25.1~30.3)%うつ病が増加し,10万人当たりの罹患は3,152.9(2,722.5~3,654.5)例であった。また不安症については,COVID-19によって7,620万例(6,430万~9,060万),率で25.6(23.2~28.0)%が増加し,10万人当たりの罹患は4,802.4(4,108.2~5,588.6)例であった。

まとめると,2020年において世界規模のうつ病は4,940万(3,360万~6,870万),不安症は4,450万(3,020万~6,250万)のDALYsを生じさせた。

解釈

今回のパンデミックによって,多くの国においてメンタルヘルスシステムの強化は喫緊のものとなった。このような取り組みは多くの国にとって負担となるものであるが,メンタルヘルス対策について再考する機会となるかもしれない。COVID-19パンデミックがうつ病と不安症の有病率と疾病負担に影響を与える状況を目の前にして,何ら対策を講じないことは,決して許されることではない。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(真鍋 淳)

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