統合失調症における抗精神病薬治療の長期継続:全国調査

SCHIZOPHR BULL, 47, 1611-1620, 2021 Long-term Continuity of Antipsychotic Treatment for Schizophrenia: A Nationwide Study. Rubio, J. M., Taipale, H., Tanskanen, A., et al.

背景と目的

統合失調症では,しばしば抗精神病薬による長期治療が必要となり,長期の抗精神病薬治療においては,高い確率で治療を中断することが知られている。本研究の目的は,統合失調症における疾患の経過に伴う抗精神病薬治療の継続性と,治療中断に関わる要因を測定することである。

方法

2000年1月1日から2014年12月31日までの期間に,統合失調症または統合失調感情障害(ICD-10 F20,F25)と初めて診断され,診断時に40歳未満で,診断前1年以内に抗精神病薬を未服薬であったフィンランド在住者全員を対象とした。

統合失調症と診断される前の抗精神病薬の使用を除外するために,処方箋登録から2000年1月1日以前の投薬使用を調査した。登録された薬剤使用は,Anatomical Therapeutic Chemical(ATC)分類に基づいて分類した。治療エピソードは中断と中断の間の期間とし,PRE2DUP法を用いてモデル化した。

主要評価項目は,2000年1月1日から2017年12月31日までの治療中断とし,治療中断の定義は,入院,治療法の変更,死亡,追跡終了以外の理由で抗精神病薬に曝されない状態が30日より長く続いた場合とした。

層別Cox比例ハザード計算を行い,初回治療と比較した後続治療の中断リスクと,このコホートで最も多く処方されているオランザピン経口薬と比較した特定の抗精神病薬によるリスクを検討した。調整ハザード比(aHR)と95%信頼区間(95%CI)を算出した。

結果

コホート全体は3,343名で,平均追跡期間は8年(標準偏差 4.93),治療中断の発生率は参加者100人‐年当たり14.82件(95%CI:14.77-14.88)であった。追跡期間中の治療エピソード数の中央値は6回[四分位範囲(IQR)=3~11],期間の中央値は11.4ヶ月(IQR=5.3~25.6)であった。

治療中断の発生率は疾患の経過と共に減少し,診断後1年目の人では抗精神病薬使用100人‐年当たり30.12(95%CI:29.89-30.35)件であったが,10年後には8.90(95%CI:8.75-9.05)件まで減少した。使用中断のリスクは,統合失調症での初回入院期間が短いと,最初は高く時間の経過と共に低下したのに対し,初回入院期間が長いと,最初からその後10年間を通して比較的低い傾向にあった。

オランザピン経口薬と比較すると,アリピプラゾール経口薬では治療中断が多かったが,パリペリドン・オランザピン・ペルフェナジン・アリピプラゾール・リスペリドン・zuclopenthixol*の持効性注射剤(LAI),クロザピン及びクエチアピンでは治療中断が少なかった。

物質使用障害の併存例では,非併存例よりも治療を中断する可能性が高かった(aHR=1.30,95%CI:1.18-1.42)。更に,経口抗精神病薬よりもLAIの方が,治療を中断する可能性が67%低かった(aHR=0.33,95%CI:0.27-0.41)。

考察

本研究では,統合失調症患者の全国コホートにおける抗精神病薬の長期継続性に関するデータから,治療中止と再導入を繰り返す共通のパターンが示唆された。更に,病気の初期段階にある患者や,物質使用障害などの併存例は治療中断のリスクが高いことがわかった。このような患者にLAIを使用することで抗精神病薬による維持療法の継続が容易になり,また,病気の初期段階は心理教育の特に重要な時期であると考えられる。

本研究の限界として,異なる医療制度下に本研究の結果を一般化することが困難であること,薬局での購入に基づいたデータであるため,治療と正確に一致しない可能性があること,支援体制や重症度など治療中止の要因となり得る背景に関する情報がないこと,治療中止の結果としての臨床転帰は含まれていないこと,が挙げられる。

*日本国内では未発売

253号(No.1)2022年4月1日公開

(高橋 希衣)

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