症状の安定している統合失調症患者における再燃予防のための抗精神病薬用量の検討―メタ解析

JAMA PSYCHIATRY, 78, 1238-1248, 2021 Examination of Dosing of Antipsychotic Drugs for Relapse Prevention in Patients With Stable Schizophrenia: A Meta-analysis. Leucht, S., Bauer, S., Siafis, S., et al.

背景

統合失調症の再燃防止に必要な抗精神病薬の用量については,いまだ検討の余地がある。薬剤による有害事象とのバランスを鑑みて維持療法に至適な用量を検討すべく,本研究では,無作為化臨床試験のメタ解析により,用量反応性について評価した。

方法

Cochrane Schizophrenia Group's Study-Based Register of Trials(2020年3月9日),PubMed(2021年1月1日)及び既報のレビューを用いて,研究を同定した。欠損データについては,筆頭著者や製薬会社に連絡して追加情報を得た。症状の安定した統合失調症及び統合失調感情障害患者を対象に,3ヶ月以上にわたって,固定用量による第二世代抗精神病薬,ハロペリドール,フルフェナジンによる再燃予防効果を検討した無作為化臨床試験を,査読者2名が独立して選択した。

Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analyses(PRISMA)ガイドラインを用いて,重複する全ての変数を抽出し,頻度論的用量反応無作為効果メタ解析を実施した。

主要転帰は再燃とし,副次転帰は再入院,陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)もしくは簡易精神症状評価尺度(Brief Psychiatric Rating Scale)の総得点の基準時点からの変化,あらゆる原因による治療中断(治療失敗の指標),有害事象による脱落(忍容性の指標)とした。

結果

26試験(経口アリピプラゾール2件,アリピプラゾール持効性注射剤(LAI)3件,フルフェナジンLAI 6件,経口ハロペリドール5件,ハロペリドールデカン酸エステル3件,ルラシドン1件,経口オランザピン2件,オランザピンLAI 1件,パリペリドンLAI 1件,クエチアピン2件,リスペリドンLAI 1件,ziprasidone* 1件,ゾテピン1件)の4,776名から得られた72用量群が解析対象となった。試験期間の中央値は48週(6ヶ月~3年)であった。

主要転帰については,有効性に関連した用量反応曲線は双曲線で,リスペリドン換算5mg/日の等価用量までの間で再燃リスクが低下し[再燃の相対リスク(RR):0.43,95%信頼区間(CI):0.31-0.57;PANSSの総得点の標準化平均差-0.55,95%CI:-0.68--0.41],その後は平坦となっていた。

副次転帰については,再入院,症状の減少,あらゆる原因による治療中断の用量反応曲線は再燃と同様であった一方で,有害事象による治療脱落は,リスペリドン換算5mg/日より用量が増加するにつれて増加し続けていた(5mg/日投与時のRR:1.38,95%CI:0.87-2.15;15mg/日投与時のRR:2.68,95%CI:1.49-4.62)。

サブグループ解析では,寛解時にある患者ではプラトーに達するのがより早く,リスペリドン換算で約2.5mg/日であった。第一世代抗精神病薬群では,第二世代抗精神病薬群よりプラトーに達するのが早かった(リスペリドン換算で約3mg/日)。

限界

本研究の限界は,等価用量を用いたこと,第一世代抗精神病薬としてはハロペリドールとフルフェナジンしか対象としていないこと,再燃は数ヶ月遅れて生じる場合があり,評価観察期間が不十分である可能性があること,などである。

結論

本結果より,リスペリドン換算5mg/日以上の抗精神病薬の用量における再燃予防効果は限定的であり,有害事象がより多く発生することが示唆された。寛解期の患者や高力価の第一世代抗精神病薬を投与されている患者では,リスペリドン2.5mg/日相当の低用量で十分効果が得られる可能性がある。ただし,低用量域では,更なる減量によって再燃リスクが一気に高くなる可能性があり,注意が必要である。また,本結果は平均的なものであって,代謝の遅速,年齢,病状,身体疾患や精神疾患の併存,薬物相互作用など個人における因子は異なり,患者によってはより高用量もしくは低用量が必要であることも考えられる。

*日本国内では未発売

253号(No.1)2022年4月1日公開

(尾鷲 登志美)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。