全国規模の統合失調症コホートにおける,持効性注射剤と経口の抗精神病薬による,神経遮断薬悪性症候群の危険因子,発生率,転帰

SCHIZOPHR BULL, 47, 1621-1630, 2021 Risk Factors, Incidence, and Outcomes of Neuroleptic Malignant Syndrome on Long-Acting Injectable vs Oral Antipsychotics in a Nationwide Schizophrenia Cohort. Guinart, D., Taipale, H., Rubio, J. M., et al.

背景

神経遮断薬悪性症候群(以下,悪性症候群)が起きた場合,抗精神病薬やその他の前駆物質を直ちに中止することが推奨されるが,持効性注射剤(LAI)が体内から消失するのには時間がかかる。本研究の目的は,LAIと経口抗精神病薬で悪性症候群の発生率や転帰に差があるかどうかを明らかにすることである。

方法

フィンランドの全国規模の医療機関データベースを用い,1972~2014年の間に統合失調症または統合失調感情障害と診断された全てのフィンランド在住者61,889名を解析に組み入れ,悪性症候群の診断コーディングを受けて退院した対象者を抽出した。対象者が使用した抗精神病薬を剤型によって経口薬とLAIに分け,発生率,入院期間,悪性症候群関連死を比較した。

結果

コホート全体では881,696人‐年当たり348件の悪性症候群が発生し,1万人‐年当たりの発生率は3.95[95%信頼区間(CI):3.94-3.95]であった。また,発生率コホート(生存バイアスの影響を除外するためのコホートで,1996~2017年の間に初めて統合失調症または統合失調感情障害と診断され,診断の過去1年間に抗精神病薬を使用していなかった8,342名から成る)では95,678人‐年当たり19件の悪性症候群が発症し,1万人‐年当たりの発生率は1.99(95%CI:1.98-2.00)であった。

抗精神病薬の剤型[LAI vs 経口薬;オッズ比(OR):0.89,95%CI:0.59-1.33]や抗精神病薬の多剤併用療法(vs 単剤療法;OR:0.99,95%CI:0.70-1.40)によって,悪性症候群の発生に違いはなかった。一方,抗精神病薬の変更(抗精神病薬数の増加;OR:5.00,95%CI:2.56-9.73),抗精神病薬数の減少や切り替え(OR:2.43,95%CI:1.19-4.96),抗精神病薬の高用量(規定用量の2倍超,OR:3.15,95%CI:1.61-6.18),抗コリン系抗パーキンソン薬の併用(OR:2.26,95%CI:1.57-3.24),リチウムの併用(OR:2.16,95%CI:1.30-3.58),ベンゾジアゼピン系薬剤の併用(OR:2.02,95%CI:1.44-3.58),心血管疾患の併存(OR:1.73,95%CI:1.22-2.45)は,悪性症候群発生の増加に関連していた。

悪性症候群によって1ヶ月未満の短期入院をした対象者は84名,1ヶ月以上の長期入院をした対象者は88名おり,経口薬とLAIでその割合に有意な差はなかった(p=0.9719)。

悪性症候群診断後30日以内に死亡した対象者8名のうち,7名が経口薬を使用し(悪性症候群を発症した経口薬使用者の5.1%が死亡),1名がLAIを使用していた(悪性症候群を発症したLAI使用者の2.9%が死亡)。診断後90日以内に死亡した対象者17名のうち,14名が経口薬(同様に10.2%),3名がLAIを使用していた(同様に8.6%)。診断後1年以内に死亡した対象者26名のうち,21名が経口薬(同様に15.3%),5名がLAIを使用していた(同様に14.3%)。製剤によって死亡率に差はなかった[χ2(1, n=172)=0.024,p=0.8778)。

考察

抗精神病薬治療中における悪性症候群の発生率は低く,発生リスクに経口薬とLAIで差はなかった。悪性症候群による入院期間や死亡率についても,経口薬とLAIの間に差は認められなかった。

本研究の限界は,悪性症候群の診断コーディングが不正確である可能性があること,入院した悪性症候群の症例のみを組み入れていること,悪性症候群の症例数が少なかったことなどが挙げられる。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(櫻井 準)

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