抗精神病薬中断後の精神病症状再燃におけるドパミン調節障害:初回精神病エピソードにおける[18F]DOPAと[11C]racloprideを用いたPET研究

MOL PSYCHIATRY, 26, 3476-3488, 2021 Dopamine Dysregulation in Psychotic Relapse After Antipsychotic Discontinuation: An [18F]DOPA and [11C]raclopride PET Study in First-Episode Psychosis. Kim, S., Shin, S. H., Santangelo, B., et al.

背景

初回精神病エピソードの臨床経過と転帰は多様である。抗精神病薬が精神病症状の改善に有効であり,抗精神病薬の中断が再燃の最も一般的な危険因子である。一方で,抗精神病薬中断後も長期にわたり寛解を維持する一群がいることも報告されている。大麻の使用歴,長期の抗精神病薬投与,男性,過去の精神科入院回数が再燃の危険因子として知られているが,精神病症状の再燃に関わる生物学的な病態についてはわかっていない。

本研究では,初回精神病エピソード患者においては,①抗精神病薬投与下でもシナプス前ドパミン機能が亢進していると抗精神病薬中止によって精神病症状の再燃が早まる,②症状が安定した状態では抗精神病薬によって正常化されていると考えられるドパミン調節機能が,抗精神病薬中止によって再度破綻し,ドパミン合成能が亢進し精神病症状が再燃する,③長期的な抗精神病薬によるドパミンD2受容体の阻害によってドパミンD2受容体がアップレギュレーションされ,所謂ドパミン過感受性が生じ,抗精神病薬の離脱により精神病症状が再燃する,という三つの仮説を検証するために,初回精神病エピソード後に抗精神病薬により症状が寛解して抗精神病薬を中止する患者を対象として,陽電子放出断層撮影(positron emission tomography:PET)を用いて,ドパミン生成能([18F]DOPA)及びドパミンD2/3受容体親和性([11C]raclopride)を縦断的に調べた。

方法

症状が安定している25名の初回精神病エピソード患者(統合失調症20名,統合失調感情障害2名,妄想性障害2名,双極性障害1名),14名の健常者を組み入れた。

線条体において,[18F]DOPA PETのKicer値をドパミン生成能,[11C]raclopride PETのBPND値をドパミンD2/3受容体親和性の指標とした。

初回精神病エピソード患者については,組み入れ後,[18F]DOPA PETを行い4週間かけて抗精神病薬を中止し,中止完了の2週間後に2回目の[18F]DOPA PETを,更にその1週間後に[11C]raclopride PET を行った。抗精神病薬中止後3週間は精神症状の評価を行い,精神病症状の再燃の有無を評価した。健常者にも患者群と同様のスケジュールで,2回の[18F]DOPA PETと1回の[11C]raclopride PETを行った。

結果

10名(40%)で再燃が見られた。再燃群,非再燃群,健常群の間で,線条体のKicer値の変化に有意な差が認められた(Week*Group:F=4.827,df=2,253.193,p=0.009)。再燃群では,基準時点での線条体のKicer値と,抗精神病薬中止から再燃までの期間との間に有意な負の相関が認められた(R2=0.518,p=0.018)。再燃群,非再燃群,健常群の間では,基準時点における線条体のKicer値(F=0.467,df=2,211.080,p=0.628)と,抗精神病薬中止後の線条体のBPNDF=1.402,df=2,32.000,p=0.261)にはいずれも有意な差は認められなかった。

結論

抗精神病薬中止後の線条体におけるドパミン生成能の変化に,再燃群と非再燃群とで差が見られたことから,ドパミン機能の障害が初回精神病エピソード患者の精神病症状の再燃を引き起こす可能性が示唆された(仮説②)。一方で,基準時点の線条体でのドパミン生成能及び抗精神病薬中止後のドパミンD2/3受容体親和性に差が見られなかったことは,仮説①及び③を支持するものではなかった。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(黒瀬 心)

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