統合失調症女性における抗精神病薬の使用と乳癌のリスク:フィンランドにおける全国規模のコホート内症例対照研究

LANCET PSYCHIATRY, 8, 883-891, 2021 Antipsychotic Use and Risk of Breast Cancer in Women With Schizophrenia: A Nationwide Nested Case-Control Study in Finland. Taipale, H., Solmi, M., Lähteenvuo, M., et al.

背景

乳癌は女性に最も多い癌である。乳癌の生涯有病率は約12%であり,統合失調症患者の乳癌罹患率は一般人口に比べて25%高い。プロラクチン増加作用のある抗精神病薬による治療が,乳癌発症率の上昇に寄与しているかどうかは不明である。本研究では,全国規模のコホートにおいて統合失調症患者の乳癌のリスクを20年以上にわたって検討した。

方法

コホート内症例対照研究を行った。本研究のデータベースは,フィンランドで1972~2014年の間に統合失調症と診断された16歳以上の女性30,785名を対象としている。症例は乳癌を発症した女性とし,除外基準は過去の癌診断,臓器移植,乳房切除,HIV診断であった。この研究データベースのために,病院退院登録,処方箋登録,癌登録からデータを収集した。各症例に対して,統合失調症女性30,785名の研究データベースから乳癌のない対照者を最大5名まで選んだ。マッチング基準は,年齢(±1歳),初めて統合失調症と診断されてからの期間(±1歳),マッチング以前に癌の診断を受けていないこととした。

解析は条件付きロジスティック回帰で行った。過去の心血管疾患・糖尿病・喘息または慢性閉塞性肺疾患・薬物乱用・自殺未遂の診断,子どもの数,乳癌のリスクを変化させ得る薬剤(ホルモン補充療法など)の使用などの共変量を調整した。

結果

研究データベースから,2000年1月1日~2017年12月31日の間に乳癌と診断された女性1,069名(症例)と,マッチさせた対照者5,339名を同定した。症例と対照者の平均年齢は62歳[標準偏差(SD)10],統合失調症と初めて診断されてからの期間は24年(SD 10)であった。最もよく使用されている3種類の抗精神病薬は両群で同じであった。

プロラクチン増加型抗精神病薬を5年以上使用していた症例の割合(1,069名中763名,71.4%)は対照群(5,339名中3,433名,64.3%)よりも高かった。その結果,プロラクチン増加型抗精神病薬への曝露が最小限(1年未満)であった場合と比較して,調整オッズ比(OR)は1.56[95%信頼区間(CI):1.27-1.92,p<0.0001]となった(表)。プロラクチン非増加型抗精神病薬を5年以上使用していた症例の割合(89名,8.3%)は対照群(436名,8.2%)と同程度であり,調整ORは1.19(95%CI:0.90-1.58)となった(表)。

WHOが定義した1日用量(Defined Daily Dose:DDD)が5,000以上のプロラクチン増加型抗精神病薬への曝露は,500DDD未満の曝露と比較して,乳癌のORの上昇と関連しており,調整ORは1.36(95%CI:1.09-1.70)であった。DDDが5,000以上のプロラクチン非増加型抗精神病薬への曝露は,500DDD未満の曝露と比較して,調整ORは1.15(95%CI:0.84-1.58)で,有意でなかった。

乳癌の種類別の検討では,プロラクチン増加型抗精神病薬の服薬は,小葉癌と乳管癌の両方のリスク上昇と関連していた。リスク上昇は小葉癌[調整OR 2.36(95%CI:1.46-3.82)]の方が乳管癌[調整OR 1.42(95%CI:1.12-1.80)]より高かった。

結論

統合失調症女性患者において,プロラクチン増加型抗精神病薬に長期的に曝露することにより,乳癌の発症リスクが上昇する可能性がある。プロラクチン増加型抗精神病薬を使用する際には,プロラクチン濃度の定常的なモニタリングを行うことを考慮すべきであり,高プロラクチン血症の場合には,アリピプラゾールなどのプロラクチン非増加型抗精神病薬への変更を検討すべきである。

表.全ての抗精神病薬,プロラクチン増加型抗精神病薬,プロラクチン非増加型抗精神病薬への曝露期間と乳癌リスクとの関連

253号(No.1)2022年4月1日公開

(大谷 洋平)

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