統合失調症と脂肪:系統的レビューとメタ解析

ACTA PSYCHIATR SCAND, 144, 524-536, 2021 Adiposity in Schizophrenia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Smith, E., Singh, R., Lee, J., et al.

背景と目的

統合失調症スペクトラム障害の患者は,疾病それ自体あるいは患者の生活様式に関連した代謝機能異常のリスクを抱えている。そのような脆弱性のある上に,抗精神病薬による治療が更に代謝機能異常を増悪させると推測されているが,そのメカニズムは明らかになっていない。

かつては代謝異常の指標として体格指数(BMI)が用いられてきたが,その後はより有害である内臓脂肪を反映する指標として,腹囲やウエスト・ヒップ比などが用いられるようになった。更に近年では,コンピューター断層撮影(CT)や核磁気共鳴画像法(MRI)などの画像技術を用いて,脂肪の量的な評価が行われている。

本研究では,画像技術により脂肪を定量的に評価した文献の系統的レビュー及びメタ解析を行い,統合失調症スペクトラム障害の患者と健常対照群とで脂肪量を比較し,更に患者群における抗精神病薬の使用が脂肪に与える影響を評価した。

方法

MEDLINE,Embase,PsychINFO,Scopusを用い,2021年2月までの期間で,関連のある症例対照研究及び前方視的研究を抽出した。主要評価項目は体脂肪率(%BF),皮下脂肪量(SAT),内臓脂肪量(VAT)とし,それぞれの群間の母平均の差(MD)及び95%信頼区間(CI)を求めた。

結果

検索の結果,2,101報の研究が抽出され,そのうち29報が選択基準を満たした。うち,主に症例対照研究から成る23報の文献が統合失調症スペクトラム障害の患者と健常対照群の比較を行っており,10報の縦断研究が患者群における抗精神病薬の使用の影響について論じていた。10報の縦断研究のうち特に4報は,基準時点で抗精神病薬を服薬していない患者を対象としていた。

患者群は,健常対照群に比べ,%BF(MD=3.09%,95%CI:0.75-5.44,p=0.010,患者群703名と健常群6,309名),SAT(MD=24.29 cm2,95%CI:2.97-45.61,p=0.03,患者群139名と健常群 111名),VAT(MD=33.73 cm2,95%CI:4.19-63.27,p=0.03,患者群157名と健常群 126名)のいずれにおいても有意に高値であった。研究時点で抗精神病薬による治療が行われているか否かでサブグループ解析を行ったところ,いずれの転帰についても,過去の抗精神病薬への曝露による有意な差はなかった。

%BFに対しては,患者群での抗精神病薬の服薬は,有意な影響を及ぼさなかった(MD=1.73%,95%CI:-1.41-4.86,p=0.28,基準時点180名,エンドポイント 150名)が,基準時点で抗精神病薬を服薬していない群に限定してサブグループ解析を行うと,抗精神病薬服薬後の%BFの有意な増加が認められた(p=0.02,I2=82%)。しかし,SAT(MD=31.98cm2,95%CI:11.33-52.64,p=0.002,基準時点155名,エンドポイント152名),VAT(MD=16.30cm2,95%CI:8.17-24.44,p<0.0001,基準時点155名,エンドポイント152名)については,抗精神病薬服薬後の有意な増加が認められた。

考察

横断研究の分析の結果,過去の抗精神病薬への曝露の有無にかかわらず,統合失調症スペクトラム障害の患者では体脂肪や内臓脂肪が有意に多いことが示された。更に,縦断研究の分析の結果,抗精神病薬の投与は内臓脂肪を増加させることが示された。体脂肪率については,基準時点で抗精神病薬未服薬の患者を含む研究が1報しかなかったために,全体では抗精神病薬の体脂肪への影響が認められなかったのかもしれない。抗精神病薬未服薬の患者に限ると服薬後に体脂肪の増加が認められたことを踏まえると,抗精神病薬の脂肪代謝への影響は,抗精神病薬の服薬歴がない若年患者に出やすい可能性がある。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(荻野 宏行)

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