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統合失調症における22番染色体の欠失と自殺企図
NEUROPSYCHOBIOLOGY, 80, 393-400, 2021 Chromosome 22 Deletions and Suicidal Behavior in Schizophrenia. Bani-Fatemi, A., Adanty, C., Dai, N., et al.
背景
統合失調症患者では,自殺率は約5%である一方,自殺企図率は30~49%に及ぶ。自殺既遂の予測因子としては自殺企図歴などが挙げられてきたが,一塩基多型(SNP)やコピー数多型(CNV)などのDNA多型を解析することが,統合失調症患者における自殺リスクの高さを同定する手法として期待されている。
統合失調症の発症に関与する重要な遺伝的要因がCNVであり,中でも22q11.2欠失が精神病発症危険因子の代表例である。これまでに,CNVの多さが統合失調症における自殺行動を増加させるという仮説が検証されたことはなかった。著者らの仮説は,22番染色体欠失というCNVのある統合失調症患者は,自殺企図リスクが高くなるというものであり,本研究の目的は,この仮説を検証することにある。
方法
トロントのCentre for Addiction and Mental Health(CAMH)において,5年間で,統合失調症もしくは統合失調感情障害と診断された,18~75歳の263名が参加した。うち101名は自殺企図歴があった。統合失調症の診断はSCID-I/Pで確認した。参加者の中に,22q11.2欠失症候群の診断を受けていた者はいなかった。自殺企図歴の同定は,コロンビア自殺重症度評価尺度(Columbia Suicide Severity Rating Scale:C-SSRS)とベック希死念慮尺度(Beck Scale for Suicidal Ideation:BSS)を用いて自殺行動の評価を行った。
参加者のゲノムDNAは,唾液もしくは白血球から抽出した。22番染色体の解析は,SNP and Variation Suite(SVS) version 8を用いて行い,確認解析にはPennCNVを用いた。
本研究においては,主要な群間比較因子は自殺企図歴の有無とした。遺伝的予測因子として,22番染色体における欠失イベント数を用いた。SVSのコピー数解析モジュール(Copy Number Analysis Module:CNAM)を用いてその数を決定した。
自殺企図歴のある者とない者における22番染色体上の欠失数比較には,ノンパラメトリックMann-Whitney U検定を用いた。両群間における欠失の有無自体を比較する際には,Pearsonのカイ二乗検定を用いた。
結果
SVS CNV解析においては,22番染色体上に少なくとも一つの欠失が存在した参加者が164名であった一方,PennCNV解析においては166名であった。
両解析の結果について,自殺企図歴の有無に関して群間比較を試みたが,欠失のある参加者と欠失のない参加者の間に有意差は認められなかった。各々の参加者における欠失数についても検討したが,1名当たりの最多欠失数が,SVSでは18であった一方,PennCNVでは69であった(図)。欠失サイズについても,自殺企図歴の有無による群間比較を実施したが,有意差はなかった。
一方で,人口統計学的な特性について比較を行ったところ,自殺企図歴の有無によって,年齢(p=0.017),罹病期間(p=0.002),入院回数(p=0.00005),精神病エピソード数(p=0.0003)については有意差を認めた。その他,欠失数と欧州系の白人であることとの間に若干の相関を認めた(SVSでp=0.02,PennCNVでp=0.052)。
SVSとPennCNVの間では,解析結果に不一致が認められたものの,大半の欠失は両手法において共通して検出された(124名において欠失イベントがあることと,57名において欠失がないことが一致していた)。
結論
本研究において,22番染色体におけるCNVと自殺リスクとの間に有意な関連を見出すことはできなかったが,更なる大規模解析や,今後の研究手法の発展が期待される。
253号(No.1)2022年4月1日公開
(滝上 紘之)
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