統合失調症における呼吸器疾患の罹患率の上昇:619,214名の統合失調症患者と52,159,551名の対照者を含む系統的レビューとメタ解析

SCHIZOPHR RES, 237, 131-140, 2021 Increased Rates of Respiratory Disease in Schizophrenia: A Systematic Review and Meta-Analysis Including 619,214 Individuals With Schizophrenia and 52,159,551 Controls. Suetani, S., Honarparvar, F., Siskind, D., et al.

背景

統合失調症患者は一般人口と比較して短命であり,その多くは心代謝系疾患や呼吸器疾患などの慢性的な身体疾患に起因している。統合失調症患者は,呼吸器疾患の危険因子に曝されており,喫煙,幼少期の大気汚染への曝露や貧しい社会経済的状況などの環境因子,低い身体活動,抗精神病薬使用などが挙げられる。しかし,統合失調症患者の呼吸器疾患の有病率と,関連するリスクを調べた研究はほとんどない。そこで,統合失調症患者における呼吸器疾患の有病率と,関連するリスクを調査するために系統的レビューとメタ解析を行った。

方法

統合失調症と診断された成人を対象とし,喘息,慢性閉塞性肺疾患(COPD),肺炎,結核の有病率を報告した観察研究の文献を,主要な電子データベースを用いて2020年4月27日まで検索した(最近のレビューがある肺癌は除いた)。

主要転帰は,統合失調症患者における喘息,COPD,肺炎,結核の有病率とした。入手可能な場合は,同じ集団内の健常対照者(統合失調症の基準を満たしていない者)における各呼吸器疾患のデータも収集した。

解析は,まず統合失調症患者における各呼吸器疾患の有病率を95%信頼区間(CI)と共に算出した。次に,統合失調症患者と対照群との間で,各呼吸器疾患の有病率を比較し,オッズ比(OR)と95%CIを算出してランダム効果メタ解析を行った。更に,メタ回帰分析を用いて媒介因子(年齢,性別等)の影響を調べた。

結果

1,573報の論文をスクリーニングし,17報の関連文献を同定した。対象患者は619,214名,平均年齢は50.3歳(35.4~70.0歳)で,59%が男性であった。初回エピソード精神病患者の呼吸器疾患の有病率を調べた研究は1報のみであった。2000年代の研究が13報を占めていた。また,12報が後方視的研究であった。多くの研究は,北米または欧州で行われていた。

メタ解析の結果,統合失調症患者における呼吸器疾患の有病率は,喘息は7.5%(7報,30,498名,95%CI:4.9-11.3,I2=95.3%),COPDは7.7%(14報,417,962名,95%CI:4.0-14.4,I2=99.9%),肺炎は10.3%(5報,89,450名,95%CI:5.4-18.6,I2=99.7%),結核は0.3%(2報,81,304名,95%CI:0.1-0.8,I2=96.2%)であった。出版バイアスを調整した結果,COPDの有病率(95%CI)は19.9%(9.6-36.7)に上昇したが,喘息では4.2%(2.4-7.5),肺炎では8.4%(3.9-15.7)に低下した。

また,一般人口52,159,551名を含む21報の文献からは,統合失調症患者では,喘息(5報,OR 1.70,95%CI:1.02-2.83),COPD(11報,OR 1.82,95%CI:1.28-2.57),肺炎(4報,OR 2.62,95%CI:1.10-6.23)のリスクが有意に高いことがわかった(図)。

メタ回帰分析では,より最近に実施された研究と平均年齢の高い研究が,COPDの有病率の高さと有意に関連していた。

結論

本研究は,統合失調症患者における複数の呼吸器疾患の有病率を包括的に調べた初めての研究である。メタ解析で有意な異質性が見られたこと,前方視的研究を含んでいないこと,患者の媒介因子に関するデータを報告している研究が少ないこと,対象論文の多くは研究の質が低いこと,出版バイアスが高いことなどの限界があるが,今回の調査結果から,統合失調症患者は喘息,COPD,肺炎といった呼吸器疾患のリスクが,一般集団と比較して有意に高いことが示された。今後,禁煙の促進など,統合失調症患者における呼吸器疾患の予防と管理の改善に焦点を当てた研究が必要である。

図.統合失調症患者と対照における呼吸器疾患リスクの比較のメタ解析

253号(No.1)2022年4月1日公開

(谷 英明)

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