プライマリーケアにおける抗うつ薬の維持または中止

N ENGL J MED, 385, 1257-1267, 2021 Maintenance or Discontinuation of Antidepressants in Primary Care. Lewis, G., Marston, L., Duffy, L., et al.

背景

抗うつ薬はプライマリーケアにおいてうつ病治療の第一選択としてよく用いられる。特に高所得国ではその治療期間の遷延化により,抗うつ薬の処方がここ数十年間増え続けている。先行研究は抗うつ薬を中止することによる再燃リスクの上昇を示唆しているが,治療期間が3~8ヶ月と短いことや,サンプルサイズが小さいことなどの問題は加味する必要がある。著者らは,盲検試験により,プライマリーケアで9ヶ月以上抗うつ薬治療を受けていて,服薬を止めても良いと考えている患者を対象に,中止と比べた場合の抗うつ薬治療を維持することによる効果を評価した。

方法

本研究は多施設共同無作為化二重盲検試験である。被験者はイングランドの4地域における150ヶ所の一般診療所から組み入れられた。18~74歳で,過去に2回以上のうつ病エピソードを持つか,2年以上抗うつ薬で治療を受けている患者が対象となった。全ての患者は,英国で最も多く処方されている抗うつ薬であるcitalopram*(20mg/日),セルトラリン(100mg/日),fluoxetine*(20mg/日),あるいは増加傾向にあるミルタザピン(30mg/日)のいずれかを,少なくとも9ヶ月間服薬していた。

被験者を無作為に,治療維持群と中止群に割り付けた。中止群のうち,citalopram,セルトラリン,ミルタザピン服薬者は,初月は半量,2ヶ月目は半量とプラセボを1日おきに,3ヶ月目からプラセボのみを服薬した。Fluoxetineの場合は,初月は20mgとプラセボを1日置きに,2ヶ月目からプラセボのみを服薬した。追跡評価は6,12,26,39,52週後に行った。

主要転帰は52週間におけるうつ病の再燃とし,評価には本研究のために修正した後方視的Clinical Interview Schedule–Revised(CIS-R)を用いた。副次転帰としては,抑うつ症状(Patient Health Questionnaire 9-item version:PHQ-9),不安症状(Generalized Anxiety Disorder Assessment 7-item version:GAD-7),抗うつ薬の副作用である可能性がある身体症状(Toronto副作用尺度),生活の質(12-Item Short-Form Health Survey:SF-12),薬剤からの離脱症状の頻度(Discontinuation-Emergent Signs and Symptoms:DESS),抗うつ薬もしくはプラセボを開始した日から中止日までの日数,患者の報告による全体的な気分,を評価した。

また,本研究は第Ⅳ相試験のため,追跡評価時にはToronto副作用尺度とDESSを用いて有害事象を記録した。

結果

23,553名を勧誘し,最終的に478名が本研究に参加した。維持群は238名,中止群は240名であった。両群の特徴は似ており,参加者の約4分の3が女性で,平均年齢は54±13歳であった。使用された薬剤はcitalopramが最も多く,およそ3/4の参加者が抗うつ薬を3年以上服薬していた。

52週間で,維持群では238名中92名(39%),中止群では240名中135名(56%)に再燃が認められた[ハザード比2.06,95%信頼区間(CI):1.56-2.70,p<0.001]。

副次転帰の結果はおおむね主要転帰と同じ方向性であった。抑うつ症状[12週時点における差の推定値(95%CI)は2.2 点(1.5-2.8)],不安症状[同2.4点(1.8-3.0)],離脱症状[同1.9点(1.5-2.3)],生活の質[同-4.9点(-6.4--3.3)]は維持群と比べて中止群でより顕著であった。

試験中,17名[維持群9名(4%),中止群8名(3%)]に重篤な有害事象が発生したが,2名は治験薬との関連は低い,15名は関連なしと判断された。

考察

プライマリーケアにおいてうつ病治療中で抗うつ薬の中止を望んでいる患者では,52週間治療を維持した群よりも中止した群の方がうつ病の再燃リスクが高かった。生活の質,抑うつ症状,不安症状,薬剤からの離脱症状は,抗うつ薬治療を中止した患者において全体的に悪かった。

*日本国内では未発売

253号(No.1)2022年4月1日公開

(上野 文彦)

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