抗うつ薬と精神療法の神経への影響:三つのメタ解析の定量的統合

BR J PSYCHIATRY, 219, 546-550, 2021 Neural Effects of Antidepressant Medication and Psychological Treatments: A Quantitative Synthesis Across Three Meta-Analyses. Nord, C. L., Barrett, L. F., Lindquist, K. A., et al.

背景

抗うつ薬と精神療法は明確な神経変化を引き起こすと予測されている。精神療法は前頭前皮質のメカニズムを介して感情の回路を対象とし,抗うつ薬は扁桃体などの皮質下の構造を介して直接的に感情の処理を変えるのではないかという有力な理論がある。

目的

本研究では,抗うつ薬と精神療法によって引き起こされた神経変化の収束と発散,及び感情のネットワークとの重複を評価することを目的とした。

方法

三つのメタ解析の定量的統合を行った(n=4,206)。座標ベースのメタ解析で最も一般的に使用されるアルゴリズムの一つである活性化尤度推定(ALE)を採用して,抗うつ薬と精神療法によって引き起こされた神経変化の収束と発散,及び感情のネットワークとの重複を評価した。

はじめに,抗うつ薬と精神療法によって引き起こされた一般的で明確な神経変化を,二つの比較可能なメタ解析を対比することによって評価した。定量的統合のため,メタ解析は過去5年以内に公開され,治療前後双方の神経画像の測定を含み,ALEを行うために適切なサンプルサイズを有し,大部分の研究が比較可能なスキャナー内の評価を含んでいるものを採用した。最終的な対象者には,主要診断がうつ病(332名),心的外傷後ストレス障害(32名),全般不安症(28名),社交不安症(135名),パニック症(59名),強迫症(33名)である619名の患者が含まれた。セロトニンまたはノルアドレナリンの再取り込み阻害薬,精神療法(主に認知行動療法であったが,マインドフルネスや他の治療も含んでいた)による治療前後で神経画像(機能的磁気共鳴画像法,ポジトロン放出断層撮影法または単一光子放出断層撮影法)が撮像されていた。大多数の神経画像は負の感情価のタスクを使用して測定されていた。

次に,感情に基づく神経活性化の三つ目のメタ解析によって,抗うつ薬と精神療法によって引き起こされた神経変化が感情のネットワークと重複しているかどうかを評価した。メタ解析の比較可能性の限界は,治療前後の神経画像測定の間隔が,抗うつ薬では7~154日,精神療法では56~182日と,研究間で大幅に異なることであった。

結果

精神療法と抗うつ薬による神経変化にはいずれの領域においても有意な収束が見られなかった。抗うつ薬では精神療法に比べ,右扁桃体から右内側淡蒼球にかけての活性化と,左扁桃体のより小さな領域での活性化が見られた(図A)。精神療法では抗うつ薬に比べ,内側前頭前皮質の活性化が見られた(図B)。

感情の処理に関係する神経領域は,抗うつ薬による両側扁桃体の活性化,精神療法による内側前頭前皮質の活性化の両方と重複していた。

結論

本研究は,抗うつ薬と精神療法が脳に対して治療特有の影響をもたらすという概念を支持する。いずれの治療も感情のネットワークの変化を引き起こすが,本研究の結果は,感情の処理におけるそれらの治療の影響が近位の神経認知の別々のメカニズムを介して起こることを示唆する。

図.気分障害に対する治療後の神経変化:抗うつ材vs精神療法

253号(No.1)2022年4月1日公開

(倉持 信)

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