小児期心的外傷と周産期うつ病:IGEDEPPコホートのデータ

J CLIN PSYCHIATRY, 82, 20m13664, 2021 Childhood Trauma and Perinatal Depression: Data From the IGEDEPP Cohort. Tebeka, S., Le Strat, Y., Etain, B., et al.

背景と目的

小児期心的外傷は周産期うつ病の危険因子と考えられているが,両者の関連ははっきりしない。本研究の目的は,小児期心的外傷と周産期うつ病との関連を評価することである。その手法として,小児期心的外傷の有無別に社会人口統計学的特性,うつ病・不安・自殺企図の既往を比較し,周産期うつ病の有病率を算出した。

方法

産後うつ病の遺伝子・環境相関(Interaction of Gene and Environment of Depression in PostPartum:IGEDEPP)はフランス・パリにある八つの産科施設における3,310名の欧州系の女性を対象とした多施設共同コホート研究である。本研究はIGEDEPPのデータを用い,2011年11月~2016年6月に小児期心的外傷質問票(Childhood Trauma Questionnaire:CTQ)に回答した3,252名を対象とした。

うつ病の評価はDSM-5の診断基準に従い,妊娠中に関しては後方視的に評価した。産後のうつ病に関しては,出産2~5日後に対面で,2ヶ月後(早期)と1年後(晩期)に電話により評価した。

結果

対象3,252名(平均32歳)のうち298名(9.2%)において,小児期心的外傷が報告された。小児期心的外傷を受けた対象者(心的外傷群)には,受けていない対象者(対照群)と比較してうつ病,不安症,自殺企図の既往が多く認められ,オッズ比[95%信頼区間(CI)]はうつ病で2.2(1.7-2.7),不安症で2.3(1.7-3.0),自殺企図で5.4(3.5-8.4)であった(いずれもp<0.001)。

3,252名のうちうつ病の評価ができた2,405名において,4人に1人(574名,23.9%)が周産期うつ病を発症した。うつ病発症者は心的外傷群が対照群よりも多く(38.7% vs 22.3%,p<0.001),社会人口統計学的特性を調整しても[調整オッズ比(aOR)=2.0,95%CI:1.5-2.7,p<0.001],大うつ病エピソードの既往を調整しても(aOR=1.7,95%CI:1.3-2.3,p<0.001)有意であった。発症の時期別でも,社会人口統計学的特性やうつ病の既往の調整後も,妊娠中(aOR=1.8,95%CI:1.1-3.0),産後早期(aOR=1.6,95%CI:1.1-2.5),産後晩期(aOR=1.8,95%CI:1.2-2.8)のいずれにおいても,心的外傷群で,対照群に比しうつ病発症者が多く認められた。小児期心的外傷の種類別では,どの種類でも心的外傷群では周産期うつ病が多く認められ,感情的・身体的・性的虐待,感情的ネグレクトでその差は有意であった(いずれもp<0.05)。更に,小児期心的外傷の数による周産期うつ病のリスクについては,対照群に比し,1種類の心的外傷を受けた者の方が高く(aOR=1.6,95%CI:1.1-2.3,p=0.015),2種類以上の心的外傷を受けた者では,社会人口統計学的特性やうつ病の既往の調整後も,よりリスクが高かった(aOR=2.1,95%CI:1.3-3.3)

考察

本研究の限界として,サンプルサイズは大きいものの一般人口を代表していないこと,うつ病の評価のできない対象者の分析が行われていないこと,CTQが小児期から早期思春期にいたる長期の心的外傷を評価する質問票であること,精神病性障害と診断された者を除外し,双極性障害と診断された者を含めたこと,小児期心的外傷と産後うつ病との因果関係について結論できないことが挙げられる。

結論

本研究の結果から,小児期心的外傷が周産期のうつ病エピソードと相関することが示された。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(久江 洋企)

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