双極性障害と前頭側頭型認知症:系統的レビュー

ACTA PSYCHIATR SCAND, 144, 433-447, 2021 Bipolar Disorder and Frontotemporal Dementia: A Systematic Review. Meller, M. R., Patel, S., Duarte, D., et al.

背景

双極性障害(bipolar disorder:BD)は寛解状態であっても,しばしば記憶・注意・言語・遂行機能の低下が見られる。前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD)は気分のゆらぎ,衝動性,脱抑制,アパシー,遂行機能低下など臨床的特徴の多くがBDと共通している。そのためFTDとBDは時折誤診されており,適切な治療が提供できていないことが多い。

目的

BDとFTDを鑑別し得る生物学的・臨床的・神経認知的特徴を詳述すると共に,BDがFTD発症の危険因子であるかどうかを検討する。

方法

BDとFTDの特徴を比較した文献を検索し,530件の文献から最終的に合計16件の研究が系統的レビューの対象となった。5件の研究がBD患者とFTD患者の生物学的または/かつ神経認知学的特徴について比較検討していたが,それぞれ用いた方法は異なっていた。11件の研究では,BDがFTD発症の危険因子であるかどうかを検討していた。

結果

FTD患者はBD患者に比して血清ニューロフィラメント軽鎖のレベルが高かった。FTD患者・BD患者共に外側前頭皮質で灰白質の体積が減少していた。特にBD患者では腹側,FTD患者では背側で目立った。更に,FTD患者ではBD患者に比して右眼窩前頭皮質,右上前頭回,左上側頭回,左後部帯状回,左海馬傍回,両側紡錘状回,右視床,右中後頭回の灰白質体積が減少しており,脳波においてはF3,F4,T3,T5,T4,T6の各チャネルで徐波振動の増加が見られた。FTD患者は,寛解状態のBD患者に比して遂行機能や心の理論に大きな障害があり,気分障害エピソード中のBD患者に比して言語流暢性の低下が見られた。一方で,気分障害エピソード中のBD患者はFTD患者に比して注意・作動記憶・言語性記憶・遂行機能の低下が見られた。

後方視的研究では,行動異常型FTD(bvFTD)の10.2~11.6%が先行するBDの既往歴を有していた。ある報告では,FTDのうちBDの診断基準を満たす患者を,①FTD診断前6~12年に躁症状を示す前駆症状群,②進行性のFTD診断基準は満たさず,年次経過による認知機能の悪化も目立たない表現型群,に分けることを提唱していた。表現型群の存在から,遅発性のⅠ型BDの一部はFTD類似の症状を呈する可能性が示唆された。遺伝子の評価では,GRN変異は4名,C9orf72変異は2名の患者で認められた。

考察

核磁気共鳴画像法(MRI)検査や脳波検査はFTDとBDの鑑別に有用であり,複数の検査を組み合わせることで更に診断精度を上げることができる。認知機能検査については,社会認知及び遂行機能検査がBDとFTDの鑑別に有用であることが示唆された。臨床的特徴については,本レビューにおいてはBDとFTDの鑑別に有用な特徴の同定はできなかった。

BD発症後に認知機能が低下しFTD様の症状を呈する一方で主たる認知症の診断基準を満たさない症例が存在し,その際にBDとFTDの関連が問題となってくる。

遺伝子の役割については,GRN変異及びC9orf72変異がBD‐FTD間の移行に関連する可能性がある。

結論

生物学的及び神経認知的特徴は,BDとFTDを鑑別し,より正確な診断に繋がる可能性がある。加えてBD患者はFTDを発症するリスクが高い。BD-FTD間の移行の予測因子を明らかにするには,更なる研究が必要である。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(三村 悠)

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