心的外傷後ストレス障害を持つ退役軍人に対する乗馬療法:非盲検試験

J CLIN PSYCHIATRY, 82, 21m14005, 2021 Equine-Assisted Therapy for Posttraumatic Stress Disorder among Military Veterans: An Open Trial. Fisher, P. W., Lazarov, A., Lowell, A., et al.

背景と目的

退役軍人は心的外傷後ストレス障害(PTSD)を呈する頻度が高いが,治療効果は低く,通院をしなくなってしまう患者も多い。そのため,代替医療が人気を集めているが,代替療法についてはいまだ適切な手法に基づいた評価が行われていない。

本研究では,PTSDに対する代替医療の中でも,乗馬療法について調査した。新しく開発され,マニュアル化された8セッションのグループ乗馬療法(EAT-PTSD)を非盲検試験で検討し,退役軍人に対する予備的な実現可能性,受容性,治療成績の評価を行った。

方法

参加者の募集は,退役軍人援護局センター(Veterans Administration Center)からの紹介,New York Presbyterian Military Family Wellness Centerで行われている他のプログラム,チラシ,広告印刷物,オンライン広告,口コミを通じて行われた。DSM-5版のPTSDチェックリスト(PCL-5)を用いて,電話でスクリーニングを行った。その後,PTSDの診断をDSM-5構造化臨床面接(Structured Clinical Interview for DSM-5, Research Version)と臨床医用PTSD尺度(Clinician-Administered PTSD Scale:CAPS-5)で確認した。最終的に,63名が本試験に参加した。平均年齢は50歳で,うち36.5%が女性であった。

主要転帰を臨床医によるCAPS-5の評価とし,副次転帰を自己記入式のPCL-5及び抑うつ症状[ハミルトンうつ病評価尺度(HDRS)及び自己記入式のBeck Depression Inventory(BDI)-IIで評価]とした。これらの評価は,基準時点,EAT-PTSDによる介入中(中間時点),介入終了時点,介入終了から3ヶ月後の時点で行った。

統計解析では,新しい精神療法の探求において伝統的に用いられてきた方法である治療企図解析を行った。更に,4時点全ての臨床評価が完了した患者48名について複数の解析を行った。治療効果は,時間を被験者内因子とした反復測定分散分析(ANOVA)を用いて検討した。そして,異なる時点同士を比較するため,Bonferroniの補正を用いた事後検定を行った。

結果

参加者は,基準時点,EAT-PTSDによる介入中,介入終了時点,そして介入終了から3ヶ月後の時点の各段階で減少していき,それぞれ63名,59名,58名,48名と推移した。

PTSD症状については,CAPS-5の得点平均値(標準偏差)は,基準時点の38.6(8.1)から最終時点の6.9(12.4)に減少した。ANOVAによる解析の結果,治療効果は有意であった(F3,186=30.41,p<0.0001,η2p=0.33)。事後検定の結果,基準時点から介入終了時点にかけての減少は有意で(p<0.0001,d=1.11),3ヶ月後の追跡時点でも持続していた(p=0.88)。減少は中間時点で見られ(p<0.0001,d=0.96),更に介入終了時点でも減少傾向があった(p=0.50,d=0.24)。PCL-5評点は,基準時点の50.7(13.8)から,介入終了時点の34.6(16.7)に減少した。ANOVAによる解析の結果は有意であった(F3,186=30.85,p<0.0001,η2p=0.33)。事後検定の結果,得点は基準時点から介入終了時点にかけて有意に減少し(p<0.0001,d=1.05),3ヶ月後の追跡時点でも持続していた(p=0.39)。有意な減少は中間時点で見られ(p<0.0001,d=0.70),中間時点から介入終了時点にかけて更に減少した(p<0.0001,d=0.34)。

抑うつ症状については,HDRSの評点は,基準時点の16.3(5.6)から介入終了時点の12.1(6.5)に減少した(F3,186=13.82,p<0.0001,η2p=0.18)。減少は中間時点に見られた(p=0.003,d=0.50)が,中間時点から介入終了時点にかけては減少が見られず(p=0.13),3ヶ月後の追跡時点においても同様であった(p=0.72)。BDI-Ⅱの得点は,基準時点の27.4(13.2)から介入終了時点の20.8(14.0)に減少した(F3,186=15.92,p<0.0001,η2p=0.20)。事後検定の結果,得点は基準時点と比べて介入終了時点で有意に減少しており(p=0.001,d=0.49),追跡3ヶ月後でも持続していた(p=0.22)。減少は中間時点で見られ(p=0.005,d=0.28),中間時点から介入終了時点にかけて更に減少した(p=0.001,d=0.22)。

結論

マニュアル化されたEAT-PTSDは,退役軍人のPTSDに対する新たな治療法として有望である。今後,大規模な無作為化対照試験によるEAT-PTSDの調査が望まれる。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(舘又 祐治)

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