自閉スペクトラム症を併存する精神疾患を持つ受刑者における暴力的な犯罪の危険因子

J PSYCHIATR RES, 143, 183-188, 2021 Risk Factors of Violent Offending in Mentally Ill Prisoners With Autism Spectrum Disorders. van Buitenen, N., Meijers, J., van den Berg, C. J. W., et al.

背景

自閉スペクトラム症(ASD)と診断された加害者による,人目に付く暴力的な事件が広く報道されることによって,ASDと暴力行為が関連している可能性に対して関心が高まっている。ASDでは二つの顕著な症状群,すなわち社会相互コミュニケーション障害と,行動や興味への反復パターンが知られている。ASDと暴力性の関係の研究結果は様々であり,ASDには高頻度で精神障害の併存症が認められ,ASDを持つ暴力的な犯罪の犯罪者では精神障害の併存症の有病率がより高いと言われている。またASD患者は被影響性が高いため,他者によって犯罪行為に導かれる傾向がより強いことが示唆されている。また,幼少期の心的外傷や虐待が,暴力行為のリスクを高めていると言われている。

本研究では,ASDと診断された犯罪者における精神障害の併存症の有病率を調べた。

方法

2013年5月1日~2019年12月19日の間にオランダの刑務所精神センターに留置された,ASDと診断されている全ての犯罪者のうち男性のみを対象とし,394名を組み入れた。

最終的な診断は,精神科医と心理学者で一致した結果とした(DSM-ⅣまたはDSM-5)。入所時の年齢,犯罪歴,精神科治療歴などの情報を収集した。また,併存疾患,負の社会ネットワークや被影響性(反社会の仲間や家族の存在,社会的孤立など),幼少期の心的外傷や被虐待歴について調べた。主要評価項目は暴力的犯罪か否かとし,暴力的とは加害者が被害者に損傷を負わせる犯罪(殺人,放火,強姦,傷害強盗など)のことである。

併存疾患の有無の比較はカイ二乗(χ2)検定かt検定を用いて調べ,危険因子の予測能については二項ロジスティック解析を用いた。

結果

本研究の対象におけるほとんどの犯罪は暴力的であり,非暴力的犯罪は11.7%のみであった。中程度の暴力的犯罪の頻度が最も高かった(32.0%)。

78.9%の対象者に,ASD以外に少なくとも一つの併存症があった。その中では物質関連依存障害(39.8%)が最も多く,次いで統合失調スペクトラム障害(31.7%),ASD以外の神経発達障害(知的障害,注意欠如・多動症,学習障害;24.1%)が多かった。

初犯率は,併存疾患群(311名)の方がASDのみの群(83名)に比べて低く(χ2(1)=4.65,p<0.05,r=0.11),常習性(過去5年間で10回超の犯罪)は併存疾患群の方が高かった(χ2(1)=5.56,p<0.05,r=0.11)。また,併存疾患群の方が幼少期に精神科治療を受けていた割合が有意に高く(χ2(1)=4.76,p<0.05,r=0.11),介護付き住宅での居住歴のある割合も高かった(χ2(1)=4.03,p<0.05,r=0.10)。

併存疾患を有することは暴力性の有意な予測因子となり,併存疾患の数が多いほど犯罪が多く[オッズ比(OR)=1.68,95%信頼区間(CI):1.27-2.18],負の社会ネットワークや被影響性も有意な予測因子となった(OR=1.49,95%CI:1.11-1.99)(表)。

結論

本研究では,ASDを持つ受刑者は併存疾患を持つ割合が高いことが示され,またそれが過去の暴力性や攻撃的行動に関連していることがわかった。この結果は,高リスク者の検知の一助となり,ASDのリスク評価ツールの発展に寄与するだろう。更に,ASDを持つ犯罪者の社会スキルの改善を標的にした治療が,負の社会的被影響性を減少させ,回復力を改善することで再犯率を下げるかもしれない。

図.二項ロジスティック回帰の結果

253号(No.1)2022年4月1日公開

(桐野 創)

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