注意欠如・多動症におけるドパミンD1受容体と活性化ミクログリア:ポジトロン断層法研究

MOL PSYCHIATRY, 26, 4958-4967, 2021 In Vivo Imaging of Dopamine D1 Receptor and Activated Microglia in Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: A Positron Emission Tomography Study. Yokokura, M., Takebasashi, K., Takao, A., et al.

背景

注意欠如・多動症(ADHD)は5%を超える高い有病率の神経発達障害であり,不注意と多動/衝動性といった特徴が見られる。ADHD治療におけるメチルフェニデートのエフェクトサイズは0.7を超えるが,身体成長の阻害や心血管系への悪影響から40%程度が治療を中断してしまうなど,忍容性が低いことが知られており,新たな治療が求められている。

メチルフェニデートの薬理的効果がドパミントランスポーターの阻害であるということは,ADHDの病態生理にこれらの神経伝達物質が関与していることを示唆している。ADHDではD1受容体の多型との関連が知られている。ポジトロン断層法(PET)を用いた研究では健常者におけるD1受容体と認知機能の関連が示されており,ADHDモデルマウスでは前帯状皮質(ACC)におけるD1及びD5受容体の異常も知られている。このようにADHDにおけるD1受容体の異常を示唆する研究は複数あり,ADHD患者におけるD1受容体の異常を直接証明することはD1受容体を標的にした新規治療の開発に繋がり得る。

また,ADHDでは炎症性マーカーの異常が知られている。未治療のADHDではインターロイキン(IL)-6やIL-10の上昇が見られる一方で,治療によってIL-6やIL-13が低下することが知られている。これらの研究はADHDにおける神経炎症の可能性を示唆するが,ADHDの脳脊髄液における炎症性マーカーの濃度を報告した研究は1報のみであり,対照群が設けられていない。これらの炎症性マーカーはミクログリアの活性との相互作用が知られている。そのためADHD患者のミクログリアの活性を調べることは,それと相互作用している神経炎症の評価にも繋がり得る。

本研究の目的は,PETを用いることで,ADHD患者において,①健常者と比較してドパミンD1受容体及び活性化ミクログリアの変化があるかどうか,②ADHDの病因として示唆されている脳領域において,これらの変化が互いに,または症状の重症度と関連しているかどうかについて検討することである。また,先行研究を踏まえ,ADHDではドパミンD1受容体の減少及び活性化ミクログリアの増加が見られ,これらが互いに相関しており,かつこれらがADHD症状の重症度とも相関しているという仮説を立てた。

方法

DSM-Ⅳ-TRによりADHDと診断され,18歳以上で,向精神薬の服薬歴がなく,その他脳の器質的異常や物質関連障害などのない者を組み入れた。健常群としては,年齢・性別をマッチさせた,自身及び第一度親族以内に神経疾患及び精神疾患の既往を持たない者を組み入れた。

臨床評価項目としては,Conners成人ADHD評価尺度(Conner's adult ADHD rating scale:CAARS),Wechsler adult intelligence scale 3rd edition(WAIS-Ⅲ),Cambridge neuropsychological test automated battery(CANTAB)の三つの尺度による評価を行った。

PETトレーサーとして,ドパミンD1受容体計測には[11C]SCH23390,活性化ミクログリア計測には[11C](R)PK11195を用いた。また,核磁気共鳴画像法(MRI)解析の関心体積(volume of interest:VOI)はACC,背外側前頭前野(DLPFC),眼窩前頭皮質(OFC),背側線条体,視床,側坐核,腹側被蓋野に手動で設定した。

結果

24名のADHD患者及び24名の健常者を組み入れた。多重比較の補正後,ADHD群において健常群と比較して,ACCで[11C]SCH23390の低下(t46=-3.11,p=0.003),DLPFCとOFCで[11C](R)PK11195の増加(DLPFC:t46=3.40,p=0.001;OFC:t46=3.86,p<0.001)が認められ,いずれも統計学的に有意であった。

また,ADHD群ではDLPFC及びOFCにおける[11C]SCH23390と[11C](R)PK11195に有意な相関が認められ(DLPFC:r=0.56,p=0.005,OFC:r=0.57,p=0.004),またその相関係数は健常群と有意に異なることが認められた(いずれもp<0.001)。ACCにおける[11C]SCH23390はCAARSの多動性指標と有意な逆相関を,DLPFCにおける[11C](R)PK11195は処理速度と有意な逆相関を示した(いずれもp<0.001)。

考察

本研究からは,ADHDではACCにおけるドパミンD1受容体の発現量の低下,DLPFCとOFCにおける活性化ミクログリアの増加が認められた。これらの結果は,新規治療の開発において重要な所見になり得ると言える。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(和田 真孝)

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