境界性パーソナリティ障害患者における自傷行為の画像的関連性:ミニレビュー

J AFFECT DISORD, 295, 781-787, 2021 Imaging Associations of Self-Injurious Behaviours Amongst Patients With Borderline Personality Disorder: A Mini-Review. Dusi, N., Bracco, L., Bressi, C., et al.

背景

境界性パーソナリティ障害(BPD)の神経生物学的基盤はまだ完全には解明されていないが,これまでの研究からは生物学的因子,遺伝的因子,心理社会的因子の間での多因子性の関連が認められることが示唆される。機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた研究からは,扁桃体,島皮質,前帯状皮質(ACC),前頭前野など,前頭葉‐辺縁系ネットワーク領域に選択的な機能変化があることがわかっている。しかし,脳機能と,自傷行為(自殺ではない自傷と,自殺企図の両方を含む)のようなBPDの特異的な臨床症状との関連を調べた研究はほとんどない。本研究では,BPDの自傷行為を対象としたfMRI研究のエビデンスを収集し,臨床的に関心の高いトピックを脳画像によるアプローチでまとめることを最終的な目標とする。

方法

PubMed,Psych-Info,Embaseを用いて文献検索を行った。検索語として,(“borderline personality disorder” OR “borderline state”) AND (“self -harm” OR “self-injury” OR “deliberate self-harm behaviour” OR “self-injurious behaviour” OR “self-mutilation” OR “auto-mutilation”) AND (“neuroimaging” OR “magnetic resonance imaging” OR “functional neuroimaging” OR “functional magnetic resonance” OR “functional magnetic resonance imaging” OR “fMRI”)を使用した。組み入れ条件は,①2020年1月までに英語で出版されている,②患者の年齢が17歳以上,③症例対照あるいは非対照試験,④fMRIデータとBPD患者の自傷行為との関連を調べている,⑤患者の主病名がDSM-Ⅳ/Ⅳ-TRまたはDSM-5に準拠したBPD,⑥生涯の中で自傷行為が認められること,とした。

結果

本研究には13報が組み入れられた。全て自傷行為のあるBPDに焦点が置かれていたが,その定義が研究ごとに異なっていた。ある研究では創傷や熱傷などを自殺とは異なる自傷としており,また別の研究では自殺企図としていた。fMRIの課題も様々ではあったが,いずれもBPDの自傷行為に関連する怒り,悲しみ,空虚感などの心理的側面に着目していた。

自傷行為のあるBPD患者では,健常者と比較して,痛み刺激時に前頭前野と側坐核が過剰に活性化し,扁桃体が非活性化した。BPD患者は,負の感情刺激時に,扁桃体の亢進と眼窩前頭皮質(OFC)の低活性化を示したが,OFCはギャンブル課題や嫌悪記憶の想起時には活性が亢進していた。一方,BPD患者では,負の感情の干渉を伴う認知課題において,OFC,ACC,基底核の低活性化を示した。

考察

本研究からは,自傷行為のあるBPD患者で,主に情動処理,遂行機能及び報酬処理に関与する皮質または皮質下の領域に,選択的な機能変化が認められた。しかし,この分野で新たに一貫性のあるエビデンスを得るためには,BPD患者を対象とした更なる神経画像研究が求められる。特に,BPDにおける自傷行為(自殺傾向ではなく)の神経生物学的側面と,その他の神経病理学的疾患における自傷行為の神経生物学的側面との区別は未だできていない。これらの障害の神経生物学的特徴をより深く理解することで,より厳密な予後の追跡手法や自傷行為の予防法が可能になるかもしれない。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(上野 文彦)

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