自殺企図再発予防における自殺ゼロフレームワーク(Zero Suicide framework)の効果:横断分析及び再発事象の生存時間解析(time-to-recurrent-event analyses)

BR J PSYCHIATRY 219, 427-436, 2021 Efficacy of the Zero Suicide Framework in Reducing Recurrent Suicide Attempts: Cross-Sectional and Time-to-Recurrent-Event Analyses. Stapelberg, N. J. C., Sveticic, J., Hughes, I., et al.

背景

自殺ゼロフレームワークとは,自殺企図後における自殺予防のケアのための制度全体でのアプローチである。自殺ゼロフレームワークは世界中で急速に採用されてきているが,有効性の裏付けが乏しく批判も浴びている。

豪州のGold Coast Mental Health and Specialist Services(GCMHSS)では,自殺ゼロフレームワークに基づく臨床自殺予防パスウェイ(SPP)が2016年12月より展開された。本研究では,この豪州の大規模な公衆衛生サービスにおいて実施されたSPPの有効性を評価した。

本論文の新規性は,解析対象を最初の自殺企図の再発に限定せず,繰り返される自殺企図イベントを対象としている点にあり,複数にわたる再発イベントを解析するために開発された6種類の統計モデルを用いて解析を行った。

方法

ゴールドコースト病院と保健サービス(Gold Coast Hospital and Health Service:GCHHS)には二つの救急部門があり,自殺企図者にとっては最も一般的なアクセスポイントとなっている。

2017年7月1日~12月31日の間にGCHHSの救急部門を受診した737件の自殺企図を行った合計604名を,救急情報システムから同定した。これらの患者にSPPを導入するかどうかについては,本人の諾否,地理的問題,臨床医の判断等によって決定した。

SPP導入の有無別に,一定の期間内(7日,14日,30日,90日)に自殺企図による再受診の相対リスク(RR)を,横断分析を用いて計算した。

また,この604名について,2009年1月1日~2018年12月31日の間の自殺企図による受診を全て同定し,このコホートを用いて,10年間の自殺企図の受診についての再発事象データを対象とした生存時間解析を行った。

結果

パーソナリティ障害のある患者ではSPPが導入されることが少なく,以前に自殺企図歴のない患者はSPPが導入される可能性が高かった。そのほかの人口統計学的特徴・臨床的特徴に有意な差はなかった。

横断分析の結果,SPPの導入で,7日以内[RR=0.29,95%信頼区間(CI):0.11-0.75;p=0.007],14日以内(RR=0.38,95%CI:0.18-0.78;p=0.006),30日以内(RR=0.55,95%CI:0.33-0.94;p=0.028),90日以内(RR=0.62,95%CI:0.41-0.95;p=0.027)の自殺企図による再受診のリスクが軽減した。

生存時間解析(図)では,SPP導入が自殺企図による再受診までの時間を延長することが示された[ハザード比(HR)=0.65,95%CI:0.57-0.67]。パーソナリティ障害の診断(HR=2.70,95%CI:2.03-3.58),自殺企図歴(HR=1.78,95%CI:1.46-2.17),先住民であること(HR=1.46,95%CI:0.98-2.25)が自殺企図再発のリスク上昇に関与した。一方,高齢者ではリスクが低下した(HR=0.92,95%CI:0.86-0.98)。

SPPの効果は全てのグループで同様であり,先住民,若者,パーソナリティ障害の患者,またはこれら以外でも,自殺企図による再受診のリスクが約65%に低下した。

結論

本研究により,自殺ゼロフレームワークに基づいたケアを受けることで,自殺企図の再発率が低下し,自殺企図の再発までの時間が延長することが示された。

本研究ではパーソナリティ障害患者へのSPP導入が少ないことが観察されたが,SPPはパーソナリティ障害を有する患者にも同様に効果的であることが示唆されたことから,自殺企図歴のあるパーソナリティ障害患者に対してSPPを導入することが推奨され得る。

SPPは初回の自殺企図から効果があると示されたことから,自殺企図歴はないが自殺リスクの高い個人を同定し,必要な医療的介入を行う必要性が示唆される。

図.各モデルにおける各予測因子の変数のハザード比推定値

253号(No.1)2022年4月1日公開

(熊谷 迪亮)

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