冠動脈性心疾患患者における精神的ストレス誘発性心筋虚血と心血管イベントの関連

JAMA, 326, 1818-1828, 2021 Association of Mental Stress–Induced Myocardial Ischemia With Cardiovascular Events in Patients With Coronary Heart Disease. Vaccarino, V., Almuwaqqat, Z., Kim, J. H., et al.

背景

安定している冠動脈性心疾患(coronary heart disease:CHD)患者でも精神的ストレスによって心筋虚血を起こすことが知られている。しかし,精神的ストレスによる心筋虚血の臨床的意義は十分に検討されていない。

目的

本研究の目的は,CHD患者の心血管イベントと精神的ストレスによる心筋虚血との関連,従来型のストレスによる心筋虚血との関連を比較することである。

方法

二つの前方視的コホート研究,すなわちMental Stress Ischemia Prognosis Study(MIPS)及びMyocardial Infarction and Mental Stress Study 2(MIMS2)のデータを解析した。

標準化された精神的ストレステスト(人前で話す課題)及び従来型のストレステスト(運動または薬理学的)を用いて心筋虚血を誘発し評価した。

主要エンドポイントは,心血管死亡と初回または再発の非致死性の心筋梗塞の複合とした。副次的エンドポイントは心血管死亡,非致死性の心筋梗塞,心不全による入院の複合とした。

結果

全918名の患者(平均年齢60歳,女性34%)のうち147名(16%)が精神的ストレスによる虚血,281名(31%)が従来型のストレスによる虚血,96名(10%)がその両方を有していた。中央値で5年間の追跡期間中に,主要エンドポイントが発生したのは156名であった。精神的ストレスによる虚血があった患者となかった患者の主要エンドポイントの多変量調整ハザード比(HR)は2.5[95%信頼区間(CI):1.8-3.5]であった。

主要エンドポイントについて虚血の種類で分けて解析すると,虚血のなかった患者に比して,精神的ストレスによる虚血のみを呈した患者では有意にリスクが高く(HR=2.0,95%CI:1.1-3.7),精神的ストレス及び従来型のストレスによる虚血の両方を呈した患者でも有意にリスクが高かった(HR=3.8,95%CI:2.6-5.6)。従来型ストレスによる虚血のみを呈した患者ではリスクは高くなかった。精神的ストレス及び従来型のストレスによる虚血の両方を呈した患者は,従来型のストレスによる虚血のみを呈した患者に比べてリスクが高かった(HR=2.7,95%CI:1.7-4.3)。副次的エンドポイントは319名で発生した。精神的ストレスによる虚血があった患者では,なかった患者と比べ,多変量調整HRは2.0(95%CI:1.5-2.5)であった。

考察

これまでCHD患者で知られていた従来型のストレスによる虚血と転帰との関連は,一部精神的ストレスによっても説明され得ることが示唆された。

精神的ストレスによる虚血は,運動ストレスによる虚血よりも心筋の酸素需要量が低い状態で発症し,冠動脈硬化の重症度との関連は低いが,内皮機能障害やプラークの存在は,精神的ストレスに対する血管運動反応を妨げる結果,逆説的な血圧収縮を引き起こす可能性がある。全身の血管抵抗は運動に応じて低下するが,精神的ストレスを受けると末梢血管収縮により上昇し,それが精神的ストレスによる虚血の原因となり得ると考えられた。脳画像研究においても感情や自律神経に関する領域がストレスに反応して変化し,それがストレス誘発性虚血と関連することが報告されている。

結論

安定したCHD患者において,精神的ストレスに起因する虚血の存在は,精神的ストレスに起因する虚血がない場合と比較して,心血管死亡または非致死性心筋梗塞のリスク上昇と有意に関連していた。精神的ストレスによる虚血の検査が臨床的に有用かどうかを評価するには,更なる研究が必要である。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(三村 悠)

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