心理社会的ストレス下におけるβ交感神経刺激が感情及び生理学的反応へ及ぼす影響

PSYCHOSOM MED, 83, 959-968, 2021 β-Adrenergic Contributions to Emotion and Physiology During an Acute Psychosocial Stressor. MacCormack, J. K., Armstrong-Carter, E. L., Gaudier-Diaz, M. M., et al.

はじめに

主観的なストレスは,心拍・血圧や神経内分泌マーカーのような客観的指標よりも,心身の健康に大きく関連していることがある。交感神経β受容体は生理学的変化・情動変化を通じて主観的ストレスに影響を与えると考えられているが,β受容体遮断薬(たとえばプロプラノロール)が主観的ストレスに与える影響に関する過去の報告は一致していない。

本研究の目的は,β受容体遮断薬が,心理的ストレスの前後における主観的ストレス評価,自律神経マーカー,神経内分泌マーカーに及ぼす影響を調査することである。

方法

90名の健康な成人が組み入れられた(女性40名,平均年齢20.29±1.46歳)。43名がプロプラノロール群,47名がプラセボ群に割り付けられた。

ストレスとなるイベントとして,被験者は,2分間自分の夢に関するスピーチを準備し,その後人前で10分間スピーチを行い,それが終わった後に5分間その場で覆面算を行うという方法をとった。被験者は服薬前,服薬後,ストレスとなるイベント前,ストレスとなるイベント中(スピーチの直後,覆面算の前),ストレスとなるイベント終了後に評価を受けた。

自己申告の感情として陽性・陰性感情一覧表(Positive and Negative Affect Schedule)を用いた。自己申告による感情の認知的評価として,挑戦すること,脅威に感じること,自分自身,周囲の状況,テストの難易度・負担感・楽しめるか,を評価してもらった。

交感神経の指標として前駆出時間(preejection period:PEP),唾液中αアミラーゼ,副交感神経の指標として呼吸性洞性不整脈(respiratory sinus arrhythmia:RSA),神経内分泌的指標として唾液中コルチゾールを測定した。

結果

ストレスなイベント前における自覚的ストレス(自己申告の感情)は両群で差がなかったが,イベント後における自覚的ストレスはプロプラノロール群で低かった(p=0.026)。一方で,感情の認知的評価には両群で差が認められなかった。

PEPはプロプラノロール群で長かった(交感神経の興奮が抑制されたことを示す)。また,プロプラノロール群ではイベント後の唾液中αアミラーゼの反応が小さかった(p=0.006)。RSA,唾液中コルチゾール反応には両群で差が認められなかった。

結論

本研究において,プロプラノロールはストレス体験に対する自覚的ストレスに影響を与えたが,感情の認知的評価には影響しなかった。同時に,プロプラノロール群では交感神経抑制効果が認められたことから,交感神経刺激による生理学的反応が主観的なストレス体験に影響を与えている可能性が示唆された。

253号(No.1)2022年4月1日公開

(石田 琢人)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。